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9-逆調教開始?
「ではここで講義を終わる、皆、課題を忘れないように」
新館と比べて古めかしい旧館にて。
本日最終の講義を終えた一ノ宮は自身の研究室へ速やかに戻った。
三十代後半には見えない瑞々しい肌。
銀縁眼鏡が怜悧な顔立ちを際立たせている。
一部の女子学生からは「一神 サマ」なんて呼ばれている文学部美人准教授、だ。
デスクについて学生のレポートに目を通していたら端に置いていた携帯が鳴った。
慌てるでもなく緩やかに用紙を下ろした准教授は通話に出る。
「はい……ああ、今日の帰りは八時過ぎくらいになると思うが……うん? ハンバーグ? わかった。じゃあ」
通話を終えて、受け持つセミナーのレポート採点を済ませれば、時刻は夜七時過ぎ。
てきぱきと帰り支度をし、趣のある木造の建物を出、三つ揃いのスーツ姿で広いキャンパスを横切る。
「一ノ宮先生、今お帰りですか?」
「ご一緒にフレンチ懐石、どうですか?」
積極的な女子学生からディナーに誘われ、微苦笑を添えて断り、大学を後にした。
バスに乗ってしばし揺られて。
窓の外を過ぎゆく見慣れた夜景を切れ長な双眸で見送った。
終点でバスを降りれば閑静な住宅街入り口。
澄んだ夜気に革靴をコツコツ鳴らして先へ進む。
今日は星が綺麗に見える。
明日はきっと快晴だろう。
住宅街の外れにある和風な平屋の一戸建て。
門扉を開いて砂利道を数歩進んで、段差を上がり、インターフォンを鳴らす。
間もなくして聞こえてきた足音。
暖かみのある木製の引き戸ががらりと開かれた。
「おかえり、あなた」
「あなたぁ、おかえりなさーい」
「……二人とも、いい加減普通に出迎えてくれないか」
やたらテンション高めのシロクロ双子にお出迎えされた一ノ宮は苦笑した。
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