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それはまた別の夜。 「シロ、ときどきガキみたいでしょ、センセェ」 「ン……」 「たまーにあったんだけどね、最近になって、また増えた。センセェがウチきてから」 「あ……あ……あ……」 「甘えてんだね、センセェに」 一ノ宮の寝床にやってきたクロは向かい合って膝上に跨らせた准教授におとぎ話でも語るように過去を口にする。 「シロはね、しっかりしてる分、脆いってゆーか。たまに俺よりすげー甘えんぼってゆーか」 センセェも連れてったあの別荘で、昔、かくれんぼしたとき? いっつも同じ場所に隠れてた。 あの浴室に。 「それってさ、すぐに見つけてほしかったってことでしょ?」 過去を語りつつ、思い出したように一ノ宮の奥に埋めたままのペニスを突き動かしてくる。 「あ、ン、ン……っ」 シャツのみ身に纏っていた一ノ宮はクロに抱きついた。 半裸だった彼の肩に指先を浅く沈め、背筋を過剰に震わせ、熱もった吐息をもどかしげに零した。 「はぁ……」 「昔、いろいろガマンしてた。あいつはね。俺はガマンしなかったけど。自分を抑えんの、昔から嫌いだから」 「あっ……あんっ……」 「泣きたいときに泣いて、笑いたいときに笑って、イラついたときは怒って、壊した」 「……クロくん……」 最奥を立て続けに挿し貫かれた一ノ宮が上擦った声で呼号すれば、その捩れた顔を覗き込み、クロは言う。 「こんな名前、嫌いだったよ、センセェ」 二人は本当にシロ・クロという名の双子だった。 兄の結城クロ(ゆうきくろ)。 弟の結城シロ(ゆうきしろ)。 「犬みたいで。父親がテキトーにつけた名前。大嫌いだった」 クロは切れ長な双眸から溢れ落ちた涙を舐め、ついでに一ノ宮の唇も、下顎も舐めた。 「でもね」 ーーセンセェから呼ばれんのは好きだよ。 「だからもっと呼んで?」 「あ……!」 「センセェ。呼んで」 「あっあっ……んっ、ああっ、ふぁっ……クロ、くん……っ」 「もっと」 「ああっ……も、ぉッ……だめ、クロくんっ、あ、あ、あ、ッッ、ッッッ!!」 クロの肩に額を押しつけ、汗ばんで滑らかな背中に爪を立て、一ノ宮は絶頂へ。 二人の狭間で痙攣したペニスが白濁した飛沫を放埓に解放した。 容赦なく狭まった肉奥に促されてクロも。 小刻みに蠢く後孔の底で熱い欠片を思う存分ばらまいた。 「ッッ……ぁ、ぁ、あ、ぁ……ッ……ん……ぅ……ッ、あっ」 掠れた呼吸を繰り返す一ノ宮を布団に押し倒して、繋がりは解かずに、クロは覆い被さった。 射精したばかりの白濁を絡ませるように、一ノ宮の奥底で緩々としごかせ、また硬くさせようとしている。 「あ、待っ……一端、抜いてーー」 「やーだ」 ずれていた眼鏡をかけ直してやり、悪戯好きなこどものように笑う。 「センセェのナカでもっといかせて?」 「……」 「センセェに子宮あったら俺のあかちゃん孕んでる?」 「……私に子宮はない」 「もしもあかちゃんできたら、毎日、みんなでピクニック行きたいね」 途中まで外されていたシャツのボタンをもう一つ外し、左右にはだけさせ、現れた突起をちゅっと吸い上げる。 すっかり濡れそぼったペニスを強請るように愛情深くしごく。 「ン」 「ん……動物園にも行きたいね」 「あ、だめ、さわっちゃだめ、っ」 「キャンプとかもしてみたい」 『どこ行くの、センセェ』 『俺達を置いてくの』 「ずっとここに帰ってきてくれるよね、センセェ。こんなこと言う俺達って、」 『……君達は酷過ぎる』 「酷過ぎる?」 初めてこの家を訪れた日の夜。 去ろうとした一ノ宮を呼び止めたのはクロだった。 眠るシロを隣にして。 帰るべき家があった一ノ宮を望んだ。 「もっと甘えさせてよ、センセェ」 再び喘ぎ出した唇に、扇情的な半開きの双眸に、一ノ宮のすべてにクロは見惚れた。 「ねぇ……センセェ?」 「んっぁ……はぁっ……クロく、ん……っ」 「センセェになら調教されてもいーよ」 まさかのクロの言葉に。 一ノ宮は思わず笑った。

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