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パラレル番外編-童話パロ

「クロ、お腹空いた」 「お前がパンぜんぶ食べちゃったから何もないよ、シロ」 「つかれた」 「お前をおんぶしてる俺の方が疲れてんだけど」 「ねむい」 「うん、寝てて? そんで静かにしてて?」 とっぷり日が暮れて暗い森の中。 月明かりを頼りに進むのは双子のシロを背負ったクロだった。 村人が滅多に寄りつかない森の奥。 立ち入ってはならない場所。 一歩足を踏み入れようものなら魔女の呪いが降りかかるという禁断の地を幼いクロは平然と突き進む。 「ほんとむかつく、あの弟」 「あんなの弟じゃないよ、クロ」 「だな」 「窓を割ったのも皿を落っことしたのも、大事な宝石がなくなったのも、ぜーんぶ俺達のせいにされた」 「あいつの鼻の下のでっかいホクロ、むしり取ってやればよかった」 「クスクス」 二人は家出中だった。 双子の母は当に亡くなり、父は新しい妻を娶り、弟が生まれた。 自分達に優しくしてくれたのは祖父だけ。 その祖父も先日亡くしたばかりのシロクロ双子は新しい家族、実の父との別れを選んだ。 ろくに荷物も持たずに昼食用の干乾びかけたパンだけポケットに詰め込み、ボロボロのぬいぐるみを一つだけ持ち出して、嫌いな家とサヨナラした。 ウゥゥウウウゥゥウ…… 「クロ、何かいる」 「しっ。寝てろってば」 「こわい」 「だいじょうぶ。俺が守るから」 「あ」 「ん? 今のはフクロウだと思うよ?」 「あそこ」 こんもり生え連なる茂みの奥から恐ろしげな鳴き声が聞こえてくる中、背中に背負ったシロが前方を指差し、クロは目を細めた。 幾重にも重なり合う枝葉の先にぼんやり、灯火さながらに揺らめく小さな光が見えた。 こんな森の奥に小屋なんか建てて、一体どんな変わり者が住んでいるのかと思いきや。 「ここに来ては駄目だ」 ノックをした数秒後、重厚な木の扉を開いたのはクロがこれまでに見たことのない綺麗な人だった。 「今すぐ帰りなさい」 銀縁眼鏡が嫌味なくらい似合っている。 シャツにチョッキ、家着とは思えない洗練された正装姿、髪もさり気なく整えられていて、弁護士や医者のような佇まい。 わぁ、なんて美人なんだろう、男の人だけど、双子は揃ってそう思った。 「聞いてるのかい」 「あの、僕達、家族とはぐれてしまって、道に迷ってしまって」 「お腹空いた」 「そうです、ずっと何も食べてなくて、ひもじくって、森には怖い獣がいるし、魔女もいるって聞いたし」 「私はその魔女の末裔だ」 クロもシロもキョトンした。 魔女の血を引く一ノ宮はキョトンしている小さな双子にため息をつく。 「一晩だけここで休むのを許可する。明日の朝一には家へ帰りなさい」

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