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夕方前に双子に誘われて一ノ宮は外出した。
初詣に向かうのかと思いきや、シロクロが向かった先は。
「おじいちゃん、ほらほら、お花綺麗でしょ! 高かったんだよー!」
すでに前日に購入していた花を墓前にせっせと活けているクロ、水を取り替えたり箒で辺りを掃いたりと小まめに動いている。
反対にシロは突っ立ったまんまだ。
一ノ宮のトレンチコートの裾を何故だかずっと掴んでいた。
彼らを育てた祖父のお墓か……。
ちらほらと墓参り客を見かける広い墓地の一角だった。
クロによって焚かれたお線香の煙がうっすら細く立ち上って寒空に溶けていく。
「おじいちゃん、一ノ宮センセェだよ!!」
「……クロ君」
「俺達の恋人!!」
「ッ、やめないかッ、声が大きいッ」
周囲に聞こえかねない大声で紹介されて一ノ宮は真っ赤になるのだった。
人が多いから面倒くさいと初詣にもどこにも行かず、運転手が知り合いであるタクシーでシロクロ双子はすぐに帰宅した。
「こ、こら、墓参りした直後にこんなことは……」
「え? そんな決まりあるの!?」
「センセェ、外出て体冷えたから、センセェんナカであったまらせて」
……こんなの寝正月に他ならない……。
昨夜と同じベッドにトレンチコートを脱ぐ暇もなしに押し倒された一ノ宮だったが。
シロが例の調子で丸まって眠ってしまった。
そんな片割れに毛布をかけてやったクロ。
墓地にいたときと同様にコートの裾を掴まれている一ノ宮の背中にぴたりと寄り添った。
「私も君達も手洗い・うがいをしていないぞ」
熟睡するシロの髪をレザーの手袋を纏う五指でゆっくり梳いてやりながら、窮屈な姿で横になった一ノ宮がそう言えば、クロはクスクス笑った。
「ばい菌だらけ?」
「ばい菌だらけだ」
「センセェ、お腹へった?」
「……いいや、昼にたくさん食べたから、そこまでは」
「俺、へっちゃった」
暖房が効き始めて温もってきた部屋。
あっという間に日が暮れて澄んだ夜空では星が瞬き始めていた。
「センセェのこと、おなかいっぱい食べたいな」
後ろから抱きしめられて一ノ宮は「ッ……」と素直に動揺した。
「シロ君が起きてしまうだろう」
「起きたらおっぱい飲ませてあげればいーんじゃない?」
むっとした一ノ宮が肩越しに睨もうとすれば。
予想がついていたクロに待ち構えられていて、ちゅっと、キスされた。
猫耳カチューシャや生クリームの免疫は徐々についてきたくせに。
こうした些細な愛情表現に一ノ宮は一向に慣れない。
瞬く間に真っ赤になってワナワナしている美人准教授のことをクロは一向に見飽きない。
「俺達のこどもみたい、シロ」
「え?」
「何でもないよ、センセェ」
今夜も双子に挟まれた一ノ宮。
何とも言えない感情?
いや、それはきっと……。
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