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シロクロ双子がチョイスした服に着せ替えられ、勝手に引っ張り出されたボストンバッグに下着やら小物やら適当に詰め込まれて。
あれよあれよという間に外へ連れ出されて。
双子の知り合いだという例の運転手が乗るタクシーに一ノ宮は押し込まれた。
急な展開でまだ眠気を引き摺っていた一ノ宮は行先を聞くのも疎かに、シロクロの間でこっくり、こっくり。
やがてシロの肩に落ち着いた。
当然、クロは面白くない。
「センセェ、こっちの肩の方が寝やすいよー」
「起こすんじゃねぇよ、クロ」
「ずるいシロッ。俺だってセンセェに肩貸してあげたいッ」
「だからうるせぇ」
「あー、やっぱ混み始めてますね、下道行ってみまーす」
「任せたー、茂里クン」
穏やかに晴れた春の朝、タクシーはナビを頼りに混雑を避けて快速に進み、双子の肩を行ったり来たりして一ノ宮は眠り続けた。
四時間近く走り抜けてタクシーは目的地へ到着した。
すでに目覚めていた一ノ宮は両脇から馬鹿丁寧に片手をとられ、シロとクロにエスコートされて、地面へ降り立つ。
双子が幼少期に祖父によく連れられて遊びに来ていたという、雑木林の奥まった場所にひっそり佇む別荘を前に、微かに息を呑んだ。
重たげなカーテンを勢いよく開けば広間には日の光がいっぱいに差し込んだ。
窓を全開にして瑞々しい風を通せば、重たげに沈殿していた空気が洗い流されていくような。
一つ一つの家具にかけられていた白いカバーが次々と取り外されていく。
「うわぁ、変な虫がいる~」
壁際に立った一ノ宮はせっせと動き回るクロを見つめていた。
一ノ宮の隣に座り込んだシロも同じく。
「シロ、さぼんな、お前も手伝えー」
腕捲りしてカバーをバタバタさせていたクロ、座っていたシロを強引に引っ張り上げて「キッチンにコレ置いてきてねん」と、購入した食器セットともう一つやたら大きな箱を手渡した。
生活臭がゼロだった空間に甘やかな草花の香りが満ちていく。
止まっていた時間が再び呼吸を始める。
『なんでかな。自分でもよくわかんねぇ』
前に一度、拉致同然にしてここへ連れてこられたとき。
どうしてこんなことをしたのか理由を尋ねた一ノ宮にシロはそう答えた。
『でもセンセェに来てほしかった。ここを知ってほしかった』
「クロ、この皿でかすぎて棚に入んねぇよ、つーかなんでこんな大皿買ったんだよ」
確かに無駄に面積の広い大皿を抱えてクロに文句をぶつけているシロ。
片割れに呆れられて笑っているクロ。
いつも通りの双子の姿に一ノ宮の胸は締めつけられた。
彼等の過去を思い、同調するように、痛みを共有して。
心に刻まれた古傷と対峙する二人に寄り添いたいと思って、そして。
ぐううううう
お腹が鳴った。
「え、今の、センセェ?」
「離れてんのにここまで聞こえたぞ」
「……違う」
真っ赤になって俯いた一ノ宮の元へ双子はいそいそやってきた。
「そだね、お腹へったね、センセェ起きてから何も食べてないもんね」
「……今のは私じゃない」
「つーか食器だけ準備して肝心の食いモンがねぇ」
「よっし、お昼食べいこ!」
「食器、無意味じゃね」
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