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三人は雑木林を抜けて雑貨屋やカフェが点在する、観光客が集中する表通りから外れた緑深い脇道を訪れた。
しかし世間は春休み、どこも賑わっている。
比較的空いていた店に入ればウッドベースのテラス席に案内されて、鳥の囀りを聞きながらランチをとった。
「シロのうまそ、一口ちょーだい!」
「ふざけんな」
「二人とも、お願いだから静かに食べてくれ」
ただでさえ色違い双子ということで周囲の注目を浴びているというのに、まるで子どものようにはしゃぐ二人に一ノ宮は肩を竦めっぱなしだ。
「この辺、どっかスーパーあったっけ?」
「忘れた」
「あ。やっば、肝心なの買ってないよ、塩・コショウ・砂糖! ああっ、コーヒーも!」
「調味料やカフェインより飯の心配しろよ」
昨日は想像もしていなかった休日の過ごし方に、一ノ宮は、そっと苦笑した。
「あ、センセェ、足りないの? 俺のキッシュあげよーか?」
「じゃあ俺のハンバーグもやるよ」
「いいや、私はもう十分だ。ちゃんと食べなさい」
食べ終えた一ノ宮はお上品に紙ナプキンで口元を拭う。
それを斜向かいから見ていたクロは。
「んーーーっ、センセェ、俺のもとって!」
「恥ずかしい真似してんじゃねぇよ、ダサクロ」
片割れに詰られようとクロはやめない、一ノ宮の方へ恥ずかしげもなく顔を突き出して「んーーーっ」と言い続ける。
テラス席にいた他の客にクスクス笑われる中、やれやれと苦笑を深めた一ノ宮、堂々と甘えてきたクロの口元を紙ナプキンでフキフキ、した。
「まるで幼稚園児だぞ、クロ君」
一ノ宮にフキフキされてドヤ顔なクロにシロの苛立ちは募る。
「このワガママ変態が」
「変態って言う方が変態だもーん」
「俺はお前みたいにセンセェに尿浣腸したりしねぇぞ」
「やめなさいッッ!」
ランチを終えて適当に辺りを散策していたら立派な大型スーパーを発見し、シロクロ双子は迷わずまっしぐら。
一番大きい買い物カートを引いて鍋やらフライパンを放り込み、肝心の食材コーナーになかなか辿り着かず、ため息を噛み殺していた一ノ宮であったが。
「おんなじかおー」
シロクロ双子に興味を持ったのか、一人の小さな男の子が自分達の後をてくてくついてきているのに気が付いた。
「ぶんれつ、したの?」
「そーそー、ある日べりべりべりぃって、俺達の体、真っ二つに裂けちゃった」
「こら、クロ君……君、お母さんは?」
周囲をざっと見回して母親らしき人物がいないとわかって尋ねた一ノ宮、しゃがみこんだクロ、口当たりハードな清涼剤をあげようとしているシロに、男の子は言った。
「だっこー」
やたら人懐っこい男の子にシロクロ双子は顔を見合わせる。
「積極的だー、将来肉食男子だ、コレ」
「クロ、抱っこしてやれよ」
「え。やり方わかんないし」
「うえええ」
「うっそ、泣きそうなってるし」
「俺らが泣かしたって思われんだろーが、早く抱っこしろ」
「そう言うシロが抱っこすればー」
「無理。怖ぇ」
あーだこーだ言い合う双子を余所に一ノ宮は。
愚図りかけていた男の子を慣れた手つきですっと抱き上げた。
「このご時世において保護者の許可をとらずに他人の子を抱き上げるのは甚だ問題ある行為だが」
抱っこされて嬉しそうに「たかいたかーい」とはしゃぐ男の子に一ノ宮は微笑みかけた。
「お母さんを探そうね」
一分も経たずして男の子の母親は自ら現れた、美人准教授に抱っこされて有頂天になっていた我が子に真っ赤になって、非難するどころかペコペコ頭を下げた。
「ばいばーい」
母親の肩越しにバイバイする男の子に手を振り返し、角を曲がって見えなくなるまで見送った一ノ宮は双子と改めて向かい合う。
「ほら、次はケトルを買うんだろ……う?」
じーーーーっと自分を真っ直ぐ見つめてくるシロクロ双子に一ノ宮は首を傾げた。
「どうしたんだ、二人とも」
「「センセェ、だっこ」」
「ッ、いい年してやめなさいッ!!」
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