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パラレル番外編-2
一ノ宮は驚いた。
放課後の図書館、苦手な教師からテーブル上で片手をとられて硬直していた体がビクリと揺れた。
「センパイ、またむづかしー小説読み耽ってんのぉ?」
「俺らのこともちゃんと見てくんねぇ?」
先ほどのセリフを双子になぞられた教師は一ノ宮の手を離すと足早にその場から去っていった。
一ノ宮は傍らに立った双子をまじまじと見続ける。
……同じ顔だ。
「あははぁ、センパイ、俺らに見惚れてるぅ」
「え?」
「ひとめぼれ、したか」
「は? そ、そもそも誰だ、君達は」
「昨日、この学校にやってきたばかりの転校生でーす、一年Cクラスのクロでーす、コッチはAクラスのシロでーす」
「実は今日な、けっこーな頻度でセンパイのこと観察してたんだよ」
「は?」
「ここでいくつか重要な点を上げてみまーす」
○生徒の評判は悪かった
○食堂のおばちゃんとのやり取りから、食べ物を粗末にするような人間には思えなかった
○用務員のおじちゃんとのやり取りから、荒れた手を卑下するような人間には思えなかった
○薬指に指輪をしたエロキョーシに肉体関係(←ここ重要)を迫られている
「な、なんだ、肉体関係って」
「え、だって今、現に犯されかけてたでしょ?」
「おか……っ!?」
「センパイをこの手で支配したいって、見え見えだったな、あのエロキョーシ」
「ただ気に入らない生徒に説教したがっているだけだ」
「んなこと言ってたら犯されるぞ、センパイ」
……なんなんだ、この双子は。
いきなり話しかけてきたかと思ったら、観察していただの、肉体関係だの……。
「にしてもさぁ、なんだろね、このデマの浸透ぶりは」
「誰かが故意に流してんだろ」
「あのエロキョーシの仕業だったりぃ?」
「は?」
「アンタをひとりぼっちにして、唯一優しく接してやる自分サマにおらおら傾け、みてーな」
「まー、生徒の噂なんかカンケーねーおばちゃんおじちゃんいるし、センパイはエロキョーシなんか眼中ないし、意味まるでないですけどー、みたいな」
クラクラクラクラ。
あまりにも唐突な話に一ノ宮は軽い眩暈を覚えた。
「あ、やっぱ見惚れてるぅ」
「センパイだけは特別に許してやるよ、視姦プレイ」
……ふ、不快だ。
翌日の昼休み。
食堂で一際注目を引くは、双子と、二人に挟まれている一ノ宮の三人だった。
「センパーイ、ほら、あーんして?」
「あーん、しろ、センパイ」
お揃いのA定食を囲んではしゃぐクロ、こちらが食事中だというのに至近距離で平然と顔を覗き込んでくるシロ。
一ノ宮は落ち着いて摂食・嚥下することもできやしない。
それでも何とか食事を済ませてバラ園に向かう。
シロクロ双子は当たり前のように上級生の両脇をついていく。
「クロ君、駄目だ、勝手に手折ったら、あ、シロ君、水はやらなくていい、用務員のおじさんがもう済ませてある」
「え~。センパイにプレゼントしようと思ったのにぃ」
「水いらねぇの、ふーん」
昨日と今日でこんなにも変わるものだろうか。
この二人が加わっただけで、慌ただしく、散々で、クラクラする。
水彩絵の具で淡く描かれていた世界が、いきなり、どぎつい油性絵の具に塗り潰されていくみたいだ。
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