56 / 66

パラレル番外編-3

放課後、図書館。 学園内において最も古いその建物は老朽化が進んでいるものの、重厚感があり、地域史の貴重な文献も多く、週末は定期的に一般開放もされていた。 「先生……」 奥に入り込めば人目につかなくなる、冷気と静寂に包まれた領域で。 一ノ宮は凍りついていた。 「なんなんだ、あの一年の転校生は……私と君との間に土足で上がり込んできたかと思えば無闇矢鱈に聖域を荒らして、言語道断だ」 自分よりも上背のある教師から両手首を囚われて力任せに本棚に縫いつけられた。 怖い。 どうすればいいのか、まるでわからない。 「君が下賤な生徒と関わりを持つ必要などないんだ、君には私がいるからね、他は無用だ、そうだろう、一ノ宮君……?」 傲慢を囁く唇が、凍りついた一ノ宮の椿色の唇へ……。 カシャ!! 「よっしゃーエロキョーシのセクハラ現場、撮影成功ぉ」 「とりあえず教頭に見せるか」 「校長でいーんじゃね?」 「PTAとか」 「PTAってどこにあんの?」 「知らねぇ」 睨みつけてくる教師に一ノ宮への接近禁止令を命じたシロクロ双子だが。 何も言わずに立ち去った彼を横目で見送り、二人は、おんなじ顔を見合わせた。 「なんかあいつまじやばいカンジぃ」 「手強そうだな」 「教師生命ふっとんでもいーからセンパイに迫る気かも」 「っち」 「……あ、あの」 やっと硬直状態から抜け出して声をかけてきた一ノ宮を全くもっておんなじ仕草で見やったシロクロ双子。 「……ありがとう……」 一ノ宮は二人に向かって照れくさそうにしながらも弱々しげに微笑みかけた……。 一ノ宮は二人に礼など言うべきではなかった。 もしかしたら、二人は、エロキョーシよりも性質の悪い生き物だったかもしれないから。

ともだちにシェアしよう!