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第28話

 恥ずかしさと居た堪れなさでどんどん熱を帯びていく頬を見せたくなかったので、僕は俯いて布団を握る自分の拳に視線を落とす。それを見た白金君は、慌てた様子で言った。 「あ、でも極力見ないようにしたよ!そういうの嫌なのかもしれないと思ったから。でも……ごめんね?」 「い、いえ!そんな、あの……こちらこそごめんなさい……ご迷惑をおかけして……。」 「迷惑なんかじゃないよ。もとはと言えば、俺が電話で席を外したせいだし。」 「白金君のせいなんかじゃありません!」 「だけど、俺が目を離さなければこんなことにはならなかったでしょ?……誰にやられたの?」 「それは……。」  言葉に詰まった僕をじっと見つめ、白金君は落ち着き払った声で質問を重ねてくる。 「同じ学校のやつでしょ?」 「……そ、そうです……。」 「名前は?」 「そ、それは……言えません。」 「どうして?報復されるのが怖い?」 「……はい。」 「でも俺は嵐山とは違う学校に通ってるんだよ?今ここで嵐山が俺に犯人の名前を言ったとし ても、そいつは嵐山が喋ったことを知ることはない。それでも怖い?」 「こ、怖いです……それでも怖い……。」  白金君はため息をつき、頭を抱える。 「俺、本当はその場で警察に通報するつもりだったんだよ。」 「え?!」 「だけど嵐山が警察沙汰にすることを望むかどうかわからなかったから我慢した。ことがことだから、もしかしたら警察沙汰にしたくないかなって。でもこれは警察に通報するようなことだよ?立派な犯罪だから。嵐山はその『被害者』。」 「……で、でも……こんなこと……は、恥ずかしいですし、大事になったりしたら……。」 「恥ずかしいことなんてないよ。本当に恥ずかしいのは嵐山にこんな卑劣なことしたやつだろ。」 「で、でも、」 「『でも、でも』って、それじゃ何も変わらないじゃん。」  突きつけられた正論に、僕はなんて言っていいかわからなくなる。白金君の言うことは正しい。これっぽっちも間違っていない。けれど、殴られるのは白金君じゃない。僕だ。白金君は「なにも変わらない」ことを悪いことのように言ったけれど、これ以上酷いことをされないで済むならば、「変わらないこと」は、僕にとってむしろいいことに他ならない。 「……白金君と、僕は違うんです……。」  ぽろりと口から転がり出た言葉に、白金君は表情を曇らせた。しかし白金君がそれ以上何かをいうことはなかった。それと言うのも、部屋のドアが控えめにノックされたからだ。 「冴にぃ?入ってもいい?」  白金君は僕に目配せしてから、部屋のドアを開ける。すると黒髪をおさげにした女の子がドアの隙間から首を突っ込んでこちらの様子をうかがってきた。 「あ、ごめんなさい。おこしちゃいましたか?」  女の子は咄嗟に申し訳なさそうな顔になり、僕と白金君を交互に見る。白金君は女の子の頭を撫でながらほほ笑んだ。 「大丈夫。ちょっと前に目が覚めたところだから。それよりどうした?」 「あのね、啓一くんが来たよ。今リビングで待ってもらってる。」 「夏希は一緒?それとも啓一だけ?」 「啓一君だけ。あとお土産にプリン買ってきてくれたの!」 「よかったじゃん。じゃあ啓一呼んできてくれる?」 「うん、いいよ。あ、そうだ、えっと……。」

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