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第29話

 僕のほうをちらっとみた女の子は、白金君そっくりの人懐っこい笑顔を浮かべて小さく頭を下げた。 「はじめまして。赤坂真帆です。」 「あ、は、はじめまして。その、色々ご迷惑かけて……。あ、嵐山涼です。」 ―――この子が真帆ちゃんか……写真で見た通り、白金君とそっくりだ。 たしか十歳って聞いてるけど、年齢よりも少し幼いような……。 すごく大事にされて、まっすぐ育った女の子って感じがする。  真帆ちゃんは部屋の僕をじっと見て訪ねてくる。 「冴にぃのお友達ですか?」 「は、はい。……一応。」 「え~、『一応』なの?」  白金君がからかうように言うと、その隣で真帆ちゃんがくすくす笑う。 「珍しいね!冴にぃの知り合いでこんなに真面目そうな人って。」 「こーら、生意気言わない。ほら、早く啓一呼んできて。」 「はーい。あ、ねえ、あとで冴にぃたちもリビングに来る?お母さんがね、昨日お友達からおいしいクッキーもらったんだって。だから啓一君が持ってきてくれたプリンと一緒に、あとでみんなで食べよう?」 「じゃあ話が終わったら三人で下行くから。」 「わかった。じゃあ啓一君呼んでくる。」  そう言い残して真帆ちゃんは部屋を出ていき、まもなくそれと入れ替わるようにゆったりとした足音が階段を上ってきて、ノックもなしに部屋のドアを開けた。 「悪い。遅くなった。」  げっそりとして疲れた表情の本郷君は、ベッドの上で体を起こしている僕に気が付くとわずかに眉をひそめる。 「大丈夫か?」 「は、はい……。」 「怪我は?」 「い、いえ、とくには。」 「そうか。」  それだけ言った本郷君はソファに腰を下ろして足を組む。そして白金君と僕を交互に見てから、おもむろに言った。 「冴、お前はすごくいいやつだと思う。だけど、みんながみんなお前みたいな人間じゃないからな。」 「どういう意味?」 「嵐山には嵐山の都合があるんだから、あんまりお前の意見を押し付けるなってこと。」  白金君はじろっと本郷君を睨み付ける。真帆ちゃんが現れたことで和らいだ空気が、再び重苦しくなってしまった。 ―――ど、どうしよう。 僕のせいで白金君と本郷君の間まで険悪になっちゃってる……。  静かに睨み合う二人の雰囲気に飲まれ、僕は俯くことしかできなかった。下手に口を挟んで状況を悪化させたくなかったし、なにより何て言えばいいかわからない。それくらい白金君も本郷君も深刻な顔をしていた。  白金君は大きなため息をつき、本郷君の隣に腰を下ろす。そして本郷君の体によりかかり、そのまま目をつぶった。 「そんなんわかってるけどさ……。」 「俺たちは親身になることはできるかもしれないけど、当事者にはなれない。考えてみろよ。仮にお前が今通報したとして、犯人があがって、それで嵐山は学校でどういう扱いを受けると思う?腫物扱いか、『チクッたやつ』って扱いを受けることになるんだぞ。」 「わかってるよ……。」 「どうするかは最終的に嵐山が決めることだ。」 「うん……。」  まだ納得しきっていないような曖昧な返事をする白金君の頭をぐしゃぐしゃと撫でた本郷君は、次に僕を見て言った。 「お前が事を荒立てたくないっていうのもわかる。ただ、いつまでも狸根入りしてたら、お前本当にいつか殺されるぞ。」 「そ、そんな、大げさな……。」 「大げさだと思うか?お前のこといじめてるようなやつらは、集団になると急に強気になって、倫理観とか道徳観とか全部抜け落ちるんだよ。」 「で、でも……。」 「じゃあ聞くけど、俺が自分と同じクラスの大人しい女子生徒拉致して、ショッピングモールのトイレに連れ込んで無理矢理犯すのは『いじめ』だと思うか?」 「ち、ちがいます……。」 「同性だから『いじめ』で、異性だから『犯罪』じゃないんだよ。性別関係なく『犯罪』。お前はそれだけのことをされてるって自覚したほうがいい。」

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