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第30話

 本郷君はそれだけ言ってから、白金君を肘でつついた。つつかれた白金君はもう一度大きなため息をついてから、僕の手元を指さす。 「水、飲んだら?水分補給しておいたほうがいいよ。」 「あ、は、はい……ありがとうございます。」  白金君に手渡されたあと飲むタイミングを失っていた水を口に含みながら、僕は白金君と本郷君を眺める。 ―――仲いいんだなぁ……。 雰囲気が険悪になることを恐れずに言いたいことを言い合える関係、か……。 僕はいままでだれともそんな関係を築けたことないや。 ……いいなぁ。  自分で努力してこなかったくせに、僕は羨んでばかりだ。白金君が言った通り。「でも、でも」と言い訳して、その結果自分で自分の首を絞めている。 ―――わかっているのに……。  その時、階下から真帆ちゃんの声が聞こえてきた。 「冴にぃ?まだー?」  白金君は苦笑いして立ち上がり、僕のほうを振り返った。 「体きつい?もし辛ければまだ寝てていいよ。俺と啓一で真帆の相手してくるから。」 「あ……い、いえ、その、大丈夫です!」  急いでベッドからはい出そうとした僕は、慌てるあまり足をシーツに引っ掛け、盛大につんのめってしまった。白金君が咄嗟に抱き留めてくれたので転びはしなかったが、そのかわりに白金君の胸に顔面を打ちつけてしまう。 「痛!」 「大丈夫?ほら、無理するから。もう少し休んでなよ。」 「す、すいません……。」  白金君に押し戻される形でベッドに戻った僕は、二人に向かって頭を下げる。 「あの、本当になにからなにまでごめんなさい。」  白金君と本郷君は目を見合わせ、二人して微妙な表情になった。そして本郷君は「先に行ってる」と言い残して部屋を後にし、残った白金君はベッドに腰を下ろして僕に言う。 「嵐山はなんも悪いことしてないだろ。だからそうほいほい謝らない。」 「で、でも、こうしてご迷惑をおかけしてますし……。」  すると白金君はふっと笑って僕の頭を撫でた。 「迷惑だなんて思ってないよ。むしろ俺のお節介だから。」 「そんな、お節介だなんて!ぼ、僕、本当にうれしいんです……もうずっと友達なんていなかったから……。だから白金君と本郷君が友達になってくれて、すごくうれしい……。」 「そう言ってもらえたら俺も嬉しい。」  にこっと笑った白金君はスマートフォンを操作してアラームを設定し、それを僕の枕元に置いた。 「小一時間したらアラーム鳴るようにしたら。あ、でも腹減ったらいつでもリビングに降りてきなよ。」 「は、はい。ありがとうございます。」 「いーえ。じゃ、おやすみ。」  最後に僕の頭を一撫でしてから、白金君は部屋を出て行った。僕は白金君の手が触れていたところに手をやってからベッドにもぐりこむ。 ―――ん…… 白金君の匂い……。  白金君のベッドなんだからそんなことは当たり前なのに、僕は今になるまでそれに気が付いていなかった。一人になってようやく緊張が解け、周りのことを気にする余裕が出てきたのかもしれない。 ―――あ……。 そういえば、ここは白金君のおうちってことでいいのかな? ということは、あとで真帆ちゃんのことをおうちに送っていくのかな。 だとしたらあんまり長居してたら迷惑になるよね……。 小一時間したらアラームが鳴るって言ってたし、アラーム鳴ったらすぐに起きて帰ろうっと…………。

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