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第31話

 しばらく眠って、次に目が覚めた時にはもう随分外が暗くなっていた。枕元に置かれていたスマートフォンを見てみると、誰かによってアラームが止められていた。 ―――白金君かな……?  まだぼんやりとする頭をはっきりさせるために目を擦りながら窓の傍によると、本棚の上に写真立てがいくつか置かれていた。どれも綺麗なフレームに入れられていて、すごく大事にされているようだった。 ―――子供時代の写真とか?  よく見ようと膝を屈めた時、部屋の外から声が聞こえてきた。 「嵐山ー?起きてる?」 「あ、は、はい!」  聞こえてきた白金君の声に返事をすると、ドアが開く。白金君は電気をつけ、僕が本棚の前にいることに気が付くとにっこり笑って言った。 「写真見てたの?」 「は、はい。勝手にすいません。」 「別にいいよ。」  愛想よく言いながらこちらにやってきた白金君は、写真立てを眺めて指を指す。 「これは小学一年生の時のだね。ほら、隣は啓一。」 「あ、本当だ……。黒髪だから真帆ちゃんにそっくりですね。本郷君もまだ幼い。」  小学校の制服を着た白金君はまるで女の子みたいだ。大きな目と少し癖のある髪が可愛らしい。ただ、やっぱり右目は眼帯で覆われていた。 ―――子どもの頃の事故って言ってたけど、この時はもうすでに事故に遭った後ってことかな。  白金君はさらに隣の写真を指差して言う。 「こっちの写真は二歳の頃。」 「あ、この両隣の人はお父さんとお母さんですか?」 「そう。」 「白金君はお母さん似だって言ってましたけど、たしかに似てますね。目元とか、口元とか、お母さんにそっくり。」 「そうでしょ?」  笑いながら言って、白金君は僕を見下ろす。 「よかった。体平気そうだね。」 「あ……はい。お陰様で。」 「お腹空いてない?」 「え?あ……そういえば、少し……。」 「嵐山の分のクッキーとプリン残ってるよ。あと、真帆がココアかホットミルクを作ってくれると思う。着替えて降りておいで。」 「は、はい。」  着替えを済ませてから一階のリビングに降りていくと、本郷君と真帆ちゃんが台所から顔を出した。二人は一つのお鍋を覗き込んで、なにか作っているみたいだ。 「あ!起きたんだ!」  真帆ちゃんが明るく言って、本郷君を見上げる。本郷君は肩を竦めて鍋をコンロの上に戻しながら言う。 「そっちに嵐山の分のクッキーを置いておいた。リビングのテーブルの上。」 「あ、ありがとうございます。」 「あとで家まで送っていくから。」 「え?そ、そんな、大丈夫です!」 「冴がそうしろって。」  すると白金君がクッキーをかじりながら窓の外を指差した。 「啓一ならバイクの免許持ってるから。」 「え?バイクですか?!」 「十六になってすぐ取ったんだよー。ね、啓一?」 「便利だから。」 「すごい……じゃ、じゃあ自分のバイクを持ってるんですよね?」 「兄貴のお古。」 「あ、お、お兄さんがいるんですか?」  本郷君は頷きながらマグカップを手に取って、お鍋の中の物を注いだ。そして温度を確かめるようにカップを揺らしてから、黙って僕に差し出す。 「あ、ありがとうございます。」 ―――ホットミルクだ……蜂蜜の良い匂い。  真帆ちゃんは僕がカップに口をつけるのを今か今かと待っているようで、じっと僕の手元を見つめている。僕は急いでカップに口をつけ、まだ湯気が出ているホットミルクを飲み込んだ。

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