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第32話

「あつっ!」 「だいじょうぶ?」  真帆ちゃんは慌てて僕に布巾を差し出した。 「だ、大丈夫です。あの、すごく美味しいです。本当に。」 「でしょ!あのね、蜂蜜と、ちょっぴり生姜が入ってるんだよ!あと黒糖ひとかけら。」 「へえ、生姜と黒糖……僕もうちでやってみようかな。」 「体あったまるし、リラックスできるからおすすめなの。冴にぃにもよく作ってあげるんだ。」 「仲いいんですね、白金君と。」 「うん!」  元気のいい返事をした真帆ちゃんはぱたぱたと足音を立てて台所の方へ駆けて行った。その姿を見て白金君は目を細め、僕を手招きする。 「真帆のやつ、嵐山のこと気に入ったみたい。」 「え?!そ、そうですか?」 「嵐山って子どもから好かれそうだよね。」 「そ、そんなことないと思いますけど……。」 「そう?真帆ってああ見えて結構人見知りするから、初対面でこんなに打ち解けるのはレアなんだよ?」 「そうなんですか?」 ―――全然そうは見えなかったけどなぁ。  僕は白金君に促されるままにソファに腰を下ろし、すすめられたクッキーをかじる。真帆ちゃんは本郷君にマグカップを押し付け、僕の隣にやってきた。 「嵐山さんの制服、北高のでしょう?冴にぃといつ知り合ったの?」 「え、えっと、その、ついこの間偶然……。」 「そうなんだ?冴にぃが啓一君以外の人をおうちに連れてくることって滅多にないから、昔からの友達なのかと思った。」 「ぜ、全然そんなんじゃなくて……ほんと偶然なんです。」 「へ~、不思議!嵐山さんの家って遠いの?」 「あ、えっと……富士見台です。」 「あ、微妙に遠い。学校まで小一時間かかるよね?」 「う、うん、それくらいかかります。」 「早起き辛くない?真帆は早起き苦手で……。中学校に入ったら部活動があるでしょう?朝練がある部活に入ることになったら早起きしなきゃいけないし、今からちょっと不安。」 「で、でも真帆ちゃんはまだ四年生って……。」 「うん、そう!五年生になったら早起きできるようになるかな?」 「う、うん、ちょっとずつ慣らしていけば大丈夫だと思う。僕も初めの頃は早起き苦手だったけど、いつの間にか慣れたので……。」 「じゃあ今日から少し早めに目覚ましセットしてみようっと。冴にぃも早起き苦手なんだし、嵐山さん見習って早起き頑張ろうよ。」  急に話の矛先が自分に向いたことに苦笑いして、白金君は本郷君に視線をやって言う。 「俺には啓一がいるからいーの。本当にヤバいときは啓一が迎えに来てくれるし。」 「また冴にぃが啓一君に甘えてるー。」  からかうように言う真帆ちゃんを優しく小突き、白金君は壁にかかった時計に目を向けた。 ―――あ、いけない。 もうこんな時間。  気付けばもう夕飯時に差し掛かっている。僕は自分の鞄を引き寄せながら、三人に頭を下げる。 「今日は本当にご迷惑をおかけしました!もう時間も遅いですし、そろそろ帰ります。本当にありがとうございました。」 「えー!もう帰っちゃうの?」  一番最初に声をあげてくれたのは真帆ちゃんだった。真帆ちゃんは余ったクッキーをせっせと袋に詰め、それを僕に渡して言う。 「また遊びに来てね!絶対だよ。」 「う、うん。ありがとう。ホットミルク美味しかったです。」 「今度はココア作ってあげる!真帆、ココア作るのも上手いんだよ。」 「あ、ありがとうございます。」  白金君は真帆ちゃんの頭を撫で、それから僕の頬に触れた。 「っ?!あ、あの?!」 「顔色、だいぶよくなったね。」

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