33 / 46

第33話

「へ?!か、顔色……?あ、えっと、お、お陰様で。どうもありがとうございました。」 ―――び、びっくりした。 いきなり触られるんだもん。 あ……。 でも、いきなり顔を触られたのに、嫌な感じしなかった……。 いつもなら「殴られる」って反射的に思って、身構えちゃうのに。 白金君なら大丈夫、なのかな……?  戸惑いを隠せなくて目を泳がせていた僕を、本郷君が呼ぶ。 「嵐山。送るからついてこい。」 「あ、で、でも。」 「いいから。」  問答無用と言った感じで僕にヘルメットを渡し、本郷君はさっさと玄関を出て行ってしまう。白金君と真帆ちゃんは悪戯っ子のようにくすくす笑いながら、そんな僕らを見送るために門の外までついてきてくれた。 「じゃあ嵐山、またね。今日はごめん。半分は俺のせいだよね。」 「え、冴にぃなんかやったの?」  真帆ちゃんが咎めるような目で白金君を見上げるので、僕は大慌てで白金君の言葉を否定する。 「ち、違います!その言い方だと語弊が……!白金君のせいなんかじゃないですし、あの、本当に、白金君のお陰で、その……。と、とにかく、今日はありがとうございました。」 「ねえ、嵐山。」 「は、はい。」 「まだ俺と友達でいてくれる?」 ―――え……?  一瞬、僕は白金君の言葉を聞き間違えたのかと思った。そもそも白金君は「友達でいてくれる?」なんて聞く立場じゃない。むしろ、それは僕が言うべき言葉だ。 ―――し、白金君からそんなこと言われるなんて……。  どう答えていいか分らずにおろおろしていると、バイクに跨った本郷君が僕を呼ぶ。 「嵐山。後ろ。」 「あ、は、はい!え、えっと……じゃあ、その……。」  白金君はふっと表情を緩め、手を差し伸べてくる。そして僕の手を取ってぎゅっと握り、笑顔で言った。 「またね、嵐山。」 「は、はい。失礼します……。」  本郷君のバイクで家まで送ってもらう間、僕はずっと白金君の言葉の意味を考えていた。 ―――今日のことは別に白金君のせいでもなんでもないのに……。 僕にとってはいつものことで、白金君が気にすることなんかじゃ……。  そんなことを考えていると、バイクが徐々にスピードを落とした。はっとして顔をあげると、いつのまにか僕の家がある住宅地に到着していた。  本郷君は僕の家の真正面にぴたりとバイクを止め、エンジンを切る。それからヘルメットを脱いで、僕がシートから降りるのを手伝ってくれた。 「あ、ありがとうございました。遠いところわざわざ。」 「べつに。それより体は?」 「だ、大丈夫です。本当にご迷惑をおかけして……。」 「それはどうでもいい。」  素っ気なく言った本郷君はヘルメットをこつん、と指で叩いてから急に言った。 「悪かったな。」 「え?」 「冴のこと。」 「え、えっと……?」 「あいつ、すごくいいやつなんだよ。正義感が強くて。その代わり、なんにでも首突っ込んで、好き放題かき回す。それも悪気なくな。俺は昔からあいつのこと知ってるから慣れてるけど、嵐山からしたら『未知の生物』だろ?」 「そ、それは……た、たしかに、戸惑うことはありますけど……。」 「あいつの振りかざす『正論』は、実際のところ正しいよ。だから厄介だ。世の中そんなにまっすぐできてない。うちの学校のやつらはみんなちょっと浮世離れしてて、世間知らずで、性善説で育ってきたやつばっかりだけど、冴はその中でもとくに浮世離れしてる。だからもし嵐山が冴の言う『綺麗ごと』が煩わしくなったら、俺に言ってくれ。それとなく冴に注意するから。自分じゃ言いにくいだろうし。」 「そ、そんな、煩わしいことなんて……。」 「気にならないなら、俺が今言ったことは忘れてくれ。ただ、冴に慣れてない人間があいつとまともに渡り合おうとすると疲弊するだけだから。それだけは伝えておく。」 「は、はい……。」

ともだちにシェアしよう!