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第34話

 本郷君は僕が返事をしたのを確かめてから、バイクに跨った。だけどすぐにエンジンをかけることはなかった。ヘルメットを両手で持ったまま、じっと何かを考え込んでいる。 ―――どうしたんだろう……? 忘れ物でもしたのかな。 「あ、あの……?」  僕が声をかけようと口を開くと、本郷君がそれにかぶせるようにして言う。 「あいつのこと、好きにならないように気をつけろよ。」 ―――へ……?  本郷君はびっくりして何も言えなくなった僕の顔をまっすぐ見据え、眉間にかすかな皺を寄せる。 「これはお前がゲイだから言ってるってわけじゃない。ただ、冴と知り合ったやつには必ず一度は言うようにしてるから、一応お前にも言っておく。」 「そ、そんな、僕が白金君を好きになるなってことないです!だ、だいたい僕は白金君とついこの間知り合ったばかりですし、好きになるどころか、まだ友達としての距離感をつかめていないくらいで……。」 「お前がつかめてなくても、向こうからぐいぐい詰めてくるぞ。なんの下心もなしにな。あいつは誰にでも分け隔てなく優しいから、女からも男からもモテる。モテるって言うのは、なにも恋愛的な意味じゃなくて、あいつの人間性に惚れるやつがいるっていう意味だ。だけどなかには目の色変えて冴のこと追っかけるやつもいる。」 「そ、そうなんですか……。」 「あいつはある意味残酷なんだよ。」 「ざ、残酷?」 「優しすぎるのは残酷だ。なにより、本人にその自覚がないのが一番残酷。うっかり冴に惚れてぐちゃぐちゃに苦しんでるやつはもう見飽きた。」  本郷君はそこで言葉を切り、真剣な目をして僕を見据えた。 「お前も無駄に傷つきたくないなら気をつけろよ。」 「は、はい……。」  返事をするだけで精いっぱいな僕からすっと目を逸らした本郷君はヘルメットをかぶり、そのまま言葉を残すこともなくエンジンをかけて去って行った。その場に残された僕は門扉に寄りかかって本郷君から聞いたことを思い返す。 ―――「好きにならないように気をつけろ」か……。 たしかに、白金君はあんな性格だから、きっと男女問わず人気があるだろうなぁ。 でも僕が白金君を好きになるなんてそんなこと……。 僕はそこまで身の程知らずじゃない。 それにちょっと卑屈かもしれないけど、僕は釣り合わない相手を好きになれるような勇気は持ち合わせていない。 「……そもそも好きになる勇気がないっていう時点で、僕の相手じゃないよなぁ。」  でもそんな僕にも、他の人と同じように忠告をしてくれたのだ。本郷君も白金君に負けず劣らず「分け隔てない」。 ―――白金君や本郷君みたいに優しい人間になれたらいいのに。  そんなことを思いながら、僕は明かりがついていない家の扉を開けた。

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