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第35話(啓一視点)

 嵐山を家に送り届けた俺は、自分の家ではなく冴との待ち合わせ場所にバイクを回した。待ち合わせ場所になっていたのは普段使わないターミナル駅で、そこには冴だけでなく同じ学校のやつらや、あるいは普段つるんでいるやつらが何人も集まっていた。  その人の群れの中の中心にいた冴は俺に気が付くと大きな声で呼んでくる。 「啓一~!こっちこっちー!」 ―――あのバカ。  悪目立ちしたくなかった俺は大股で冴の下へ近寄り、頬をつねる。 「いたた!痛いって、啓一!」 「デカい声で呼ぶな。」 「えー、だって呼ばないと気付いてくれないじゃん?」 ―――呼ばれなくたって気づく。  内心そう思いながら苦い顔をしていると、俺の背中を誰かが叩いた。 「やっほー啓一~。昼間ぶり~。」 ―――また面倒なのが……。  ため息をつきながら振り返ると、案の定神田が俺を見上げてにやにや笑っている。 「冴と一緒じゃないなんて珍しいね?」 「寄るところがあったから。」 「ふーん。冴からの頼まれごと?」 「そんなところ。」  神田と話している間も人は集まり続ける。最終的に三十人近く集まったところで、冴が声を大きくして言った。 「みんな、わざわざ集まってくれてありがとー!事前に連絡してた通り、みんなに協力してもらいたいことがあるんだ。そう難しいことじゃなくて、みんなはただいてくれるだけで大丈夫だから!」  すると集まったやつらの間から好意的な返事が次々と返ってくる。 ―――人望を得やすいっていうのは、ある意味才能だ。  冴の周りにはいつも誰かしらがいる。あの人懐っこい笑顔と、誰に対しても優しい性格は自然と人を惹きつけるらしい。もちろん、冴に関するいろいろな噂については俺も知っていた。この派手な外見からそういう噂が自然発生するのも無理はない。ただ、冴のことを少しでも知っているやつの間では、冴は非の打ちどころのない「人気者」だった。  そんな中、俺が冴の一番近いところに居続けたのは、ただ単に「幼馴染」だったからだ。誰よりもお互いのことを古くから知っている。その理由だけが、俺と冴の関係の根拠なのだ。 「啓一。」  隣を歩く冴が急に俺の名前を呼ぶ。俺は視線だけを下げて冴の言葉の続きを待った。 「嵐山のこと送ってくれてありがとね。」 「別に。」 「電車で一人で帰らせてもよかったんだけど、あんなことがあった後だからさ。大丈夫かなあ……。」 「良くも悪くも慣れてるから大丈夫だろう。……慣れてることがそもそも問題だけど。」 「そうだよね。あ、そうだ。啓一にはまだ紹介してなかったよね?」  そう言って、冴は見知らぬ男を連れてきた。 ―――誰だ、こいつ。 今まで一度も見たことない……。  そんな俺の考えを見透かしたように微笑み、冴は男を俺に紹介した。 「この人は北高のOBの淡路さん。この春卒業したばっかりだから、嵐山のことも知ってて。色々教えてもらったんだ。ね、淡路さん?」  淡路という男は締まりのない顔で笑い、頷く。 ―――あーあ、さっそく冴に骨抜きにされてる。  呆れながらも会釈をすると、淡路は俺を見上げて言った。 「嵐山はある意味うちの学校で有名だったからさ。」 「『いじめられっこ』って意味でですか?」 「うん。俺の学年にも嵐山のこといじめてるやつがいたしね。俺は関わらないようにしてたけど。」 「なんでいじめられてたんです?」 「さあ?詳しくは知らないけど、ゲイだって噂になってからはひどくいじめられてたみたいだよ。とくに同級生からのいじめがひどくて。」

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