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第36話(啓一視点)

 冴は淡路の言葉が途切れたタイミングを見計らい、するりと会話に入ってくる。 「梅田っていうやつが主犯格なんだって。SNS見てみたら顔写真あげてたよ。ほら、これ。」  冴から差し出されたスマートフォンの画面を覗いて見ると、寝癖なのかなんなのかわからないような中途半端なパーマをかけたやつが、得意げな顔をしてピースサインをしている。 「これ……塾の教室か?」  写真の背景に目を凝らすと、机と椅子が整然と並び、ホワイトボードが壁に掛けられていた。こういうインテリアは学校でなければ塾と考えるのが妥当だろう。  冴は俺の言葉に頷き、その教室風の背景を指さした。 「ここ、窓の外にコンビニと美容室があるでしょ?」 「コンビニ……ああ、ほんとだ。」  言われてみれば、辛うじて美容室の名前が読み取れる。俺はここまで聞いて、冴が何をしたのかわかった。 「つまり、お前は知り合い中にこの写真を拡散して、場所を特定したわけだな?」  冴はにやっと笑いながら、後ろをわいわいとついてくる仲間たちを振り返る。仲間内に拡散してしまえば、あとは冴の思う通りに事が運ぶことは間違いない。誰もが冴のために、親身になって写真の場所がどこなのかを探すだろう。そして実際のところ、こうして場所が判明した。 ―――“みんなの人気者”か……。  左胸の奥がちりちりと焦げるように痛み、一瞬このまま冴を連れて帰ってしまいたいと思った。もちろん本当にそんなことをするわけにはいかないので、俺は黙って足を前に動かし続ける。  やがて繁華街が途切れたかと思うと、塾の看板が並ぶ通りに出た。 「あ。」 ―――あれ、さっきの写真に写ってた美容室の看板。 あとコンビニも。  見覚えのあるものを見つけて足を止めると、少し前を歩いていた冴も足を止めた。 「あったあった~。へえ、ここかぁ。」  にこにこと機嫌よく塾が入った雑居ビルを見上げ、冴は腕時計に目をやった。 「十時ジャスト。ちょうど授業が終わった時間だ。」 「授業時間まで調べたのか?」 「竹芝くんの弟の友達がここの塾に通ってたらしくて、教えてもらった。」 「誰だ、竹芝って?」 「夏希の元彼の同級生の部活仲間。」  かなり遠い間柄だが、冴のことだ。たぶん今ではすっかり「友達」になっているのだろう。 「とにかく、間もなく出てくるんだな?」  俺がそう尋ねると、冴は小さく頷いて雑居ビルを顎で指す。 「あと五分かそこらじゃん?」 「そうか。」  冴のその言葉通り、間もなく建物から制服姿の高校生たちが出てきた。そして建物から出てきた誰もが、歩道にずらりと並ぶ面々を見て目を見開く。 ―――たしかに、こうナリが派手なやつらが集まっていたら怖いだろうな。 下手すれば通報されかねない。  そのあたりのことを冴がどう考えているかはわからないが、万が一警察を呼ばれたとしてもうまいこと言い逃れをする準備はできているに違いない。抜け目のなさにかけても、冴に右に出る奴はそうそういないことは、幼馴染の俺がよくわかっていた。 「あ、見ーっけ!」  いきなり冴がそう言ったかと思うと、俺の隣から駆けていく。そして建物から出てきたばかりの学ラン姿の男の腕をがっちりと掴み、笑顔になって言った。 「おつかれ~、梅田クン!」  嵐山のことをいじめているらしい梅田というやつは、青い顔になって冴に見入る。いったい自分になにが起きているのかわからないといった様子だ。 「え、あ、な、なに?」 「え~?『なに』って、そんな薄情だなぁ。迎えにきたんじゃん。ほら、みんなも来てくれたよ?」

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