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第37話(啓一視点)
人懐っこく笑いながら、冴はまるで梅田と以前からの知り合いであったかのように喋り続ける。状況が呑み込めていない梅田はさっきから返事らしい返事もできずに口をぱくぱくさせていたが、冴はそんなことお構いなしといった調子で切り出した。
「勉強大変だったろ?そうだ、飲み物でも奢るよ。」
「は?の、飲み物?」
「みんなも行こうよ~。ここでたむろしてたら邪魔になっちゃうし。」
冴の呼びかけに応じて、誰かが「それならダイスに行こう。」と言い出した。ダイスというのは俺や冴もよく顔を出すクラブの名前だ。今日集まった面々はみんなオーナーと面識があるので、込み入った話をする場所としてはちょうどいい。
「お、俺は、」
梅田が慌てて口を開いたが、冴はそんな梅田と肩を組み、笑顔で言葉の先を封じ込める。
「大丈夫、オーナーがご馳走してくれるよ。あるいは、北高のOBの淡路さんがカワイイ後輩のために一肌脱いでくれるかもね。よし、じゃあ行こうか。」
有無を言わせず、冴は梅田を連れて歩き出す。俺は雑居ビルの入り口でこちらを見ていた女子高生二人に気が付き、彼女らの手にスマートフォンが握られていることにも気がついてしまった。
―――冴のやつ、俺に尻拭い押し付けたな……。
しかたなく、俺は動き出した人の波に逆らって女子高生たちのもとへ行く。
「ひっ!」
「っ!」
俺を見上げた女子高生は明らかに怯えた顔になり、かたかたと震えだした。自分の容貌が相手に威圧感を与えることは百も承知していたので、俺は体を屈めて二人に視点を合わせてから話を始めた。
「おどろかせて悪かった。ただ友達を迎えにきただけだから。」
「へ……?」
「と、友達って、梅田くんのことですか……?」
「そう。」
二人は顔を見合わせ、「本当だったんだ」と言い合う。
「本当だったって、なにが?」
そう問うと、二人は恐る恐るといった調子で話し出した。
「梅田くんっていつも『俺やばいやつらとつるんでるから』って言ってて。」
「授業中に物食べたり、ケータイ鳴らしたりするから、迷惑に思って注意した人がいたんですけど、その人に『調子のってると潰す』とか言ったりして……。」
「……『やばいやつ』って、誰のこと?」
「え?さっきここにいた人たちのことじゃないんですか?」
「私たちてっきりそうなのかと……。」
―――勝手に「友達」を自称してたのか?
それがばれるのが怖くて嵐山をいじめていた……っていうのは辻褄が合わないか。
嵐山が冴と「友達」になる前から嵐山はいじめられてたんだから。
まあ、それは本人に直接聞けばいいことだが。
頭の中でそう結論付け、俺は女子二人に言う。
「とりあえず、もう周りに迷惑かけないようによく言ってきかせておくから。」
「あ、は、はい。」
「ああ、あと通報とかもしなくて大丈夫。あいつとは顔なじみだし。」
二人は自分たちが手にしたスマートフォンを見下ろしてから、ばつが悪そうに笑って頷いた。さしあたり「尻拭い」はこれで十分なはずだ。
―――あとは冴たちを追いかけるだけか……。
どうせだらだらと歩いているに違いない。
今から追いかければ店に着く前に追いつけるだろう。
俺は女子高生二人をその場に残し、急ぎ足で冴たちの後を追った。
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