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第42話
梅田君にショッピングモールで襲われてから数日の間に、僕の周りには明らかな変化が生じ始めた。まず、通りすがりに殴られることがなくなった。わざと肩をぶつけられることはあったけれど、いきなり拳が降ってきたり、お腹に蹴りをいれられるようなことは完全になくなったのだ。
そして次にセックスを強要されることがなくなった。率先して僕のことをいじめていた梅田君ですら僕に近づかなくなり、そればかりか僕が誰かにからかわれていたりすると「そんなやつかまってるな」と言って、僕の前から友人を連れていなくなることが増えた。
―――いったいどうしたんだろう?
自分になにが起きているのかわからず首を傾げるばかりの僕は、白金君と本郷君に理由を知らないか尋ねてみた。梅田君にショッピングモールで襲われたことを知っているのはその二人だけのはずで、もしなにか知っているとしたら彼ら以外にいない。
そう思ったのに、二人は顔を見合わせ、口をそろえて「心当たりがない」と言う。一瞬本郷君が白金君に目配せをしたような気もしたけれど、それも僕の気のせいだったのかもしれない。結局、僕はどうして自分がいじめの対象から外れたのかわからずじまいだった。
「どうしてだかわからないんです。」
ある日の放課後、僕は白金君と向かい合ってハンバーガーを食べながら何度目かわからない
「疑問」をこぼす。白金君は苦笑いしながら肩を竦める。
「そう言われてもなぁ。でも暴力をふるわれなくなったことはいいことじゃない?俺嵐山の顔に絆創膏もガーゼも貼ってないところ初めて見たよ。」
「あ、は、はい。」
これまでずっとガーゼが貼られていた場所に触れながら頷く僕に、白金君はさらに言った。
「そもそもゲイだからいじめられるっていう理由がわかんないし。『正常に戻った』って思えばいいんじゃない?」
「で、でも、いじめられてた理由はたぶんそれだけじゃなくて、僕がこういう性格だからっていうのもあって……。」
「こういう性格?」
「く、口下手で、す、すぐ緊張しちゃうので……。『おどおどしててキモい』って言われたこともありますし、たぶんそういうことなんだと……。」
「おどおどしてるとキモい?えー、意味わかんない。」
「し、白金君は僕と話しててイライラしませんか?」
「イライラ?なんで?」
白金君は聞かれている意味が分からないといわんばかりに首を傾げ、塩がたっぷりふりかかっているポテトを頬張った。
「嵐山がおどおどしてるのは、これまで嵐山と接してきたやつらがろくに話も聞かないで、そのかわりに殴ったり蹴ったりしてたからじゃないの?」
「そ、それは……。」
「少なくとも俺は、嵐山と話しててイライラしたことないよ。」
そう言って笑った白金君はテーブルの上に置かれたスマートフォンを見て、眉間にしわを寄せた。
「あ、あの……どうかしました?」
「あ、ごめんね。啓一から連絡入ってて。部活のミーティング入っちゃったから来られないって。」
「そ、そうですか。そういえば、今日は真帆ちゃんのお迎え大丈夫なんですか?」
「うん、今日は大丈夫。家政婦さんが来てるから。」
「家政婦さん?」
「そう。骨折しちゃってしばらくお休みしてたんだけど、今日から復帰したから俺はお役御免。あ、真帆と言えば、今度の日曜日空いてる?」
「日曜日ですか?あ、空いてます。」
「真帆の誕生日パーティーやるんだけど、よかったら参加してくれない?」
「え?!た、誕生日パーティーですか?!」
困り顔の白金君は紙ナプキンで手を拭きながら頷く。
「子どもの誕生日パーティーなんて気乗りしないかもしれないけど、真帆が嵐山のこと呼んでくれってうるさくて。」
「そ、そんな、僕なんかがお邪魔してもご迷惑なんじゃ……。」
「そんなわけないじゃん。真帆のやつ嵐山のこと本当に気に入ったみたいでさ。あ、でもさすがに子どもたちに交じって参加しろとは言わないから安心して?昼間は真帆の学校の同級生を呼んでやるんだけど、夕方からうちの家族と啓一を呼んで身内でパーティーするから、それに参加してもらえたらって思って。手ぶらで来てくれれば大丈夫だから。どうかな……?」
「ぼ、僕なんかが混ざってもいいのであれば……あ、あの、ぜひ参加させてください。」
「ほんと?」
ぱっと表情を明るくした白金君は身を乗り出し、僕の手をつかむ。
「っ?!あ、あの、手、」
「ほんとに来てくれる?」
「へ?あ、は、はい。」
「よかった~!真帆が喜ぶよ。ありがとね!」
握った手をぶんぶんと振ってから、白金君は心底嬉しそうに目を細めた。
―――「お兄ちゃん」の顔してる。
なんだか微笑ましいな。
「あ……でも……。」
「ん?」
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