「い、いえ。その、せっかくなら真帆ちゃんに誕生日プレゼントをと思って。」 「んー、真帆は嵐山が来てくれるだけで十分喜びそうだけど。」 「でも、お祝いしたいんです。もちろん、そんなにたいしたものは贈れませんけど。」 　白金君はぱたぱたと瞬きして、それからくしゃっと人懐っこい笑顔を浮かべた。そしてカップに残ったジュースを飲みほし、頬杖を突きながら身を乗り出してくる。僕は急に近くなった顔と顔にどきどきして、反射的にのけぞった。 「あ、あの？」 「嵐山って、優しいね。」 「そ、そんなことはないです！ただ、あの、お祝いの気持ちだけでも伝わればって……。」 「そういうところが優しいじゃん」 「そ、そんなことは……。でも真帆ちゃんはどんなものなら喜んでくれるんでしょう？白金君はこの間買ったヘアゴムをあげるんですよね？」 「うん。この間買ったヘアゴムと、あとちょっとお高いリップクリーム。うっすら色つくやつあるじゃん？あれ。化粧はまだ早いと思うけど、リップクリームならセーフかなって。」 「なるほど。僕はどうしよう……食べ物のほうがいいでしょうか？」 「食べ物なら、あいつ甘いもの好きだよ。チョコレートとか、マカロンとかクッキーとかね。そうそう、啓一はポーチをプレゼントにするって言ってた。この間夏希と選んだんだって。夏希もなんか用意してくれたみたい。ボディクリームって言ってたかな。」 「ポーチとボディークリーム……。」 ―――どうしよう、僕は何を贈ろう……。 　なかなかいいアイディアが浮かばずにうんうん唸っていると、白金君が唐突に言った。 「とりあえずあれこれ見てみる？ついでに俺の買い物もしたいんだけど、付き合ってくれたら嬉しいな。」 「も、もちろんです。白金君はなにを……？」 「欲しいCDがいくつかあってさ。嵐山って音楽とか聞く？」 「え、えっと、あんまり……で、でも、たまにラジオで聞いたりはします。勉強しながらラジオ聞くのが好きなので。だから曲は好きなのにタイトルが分からないやつとかが結構あって……。」 「あ～、わかる。そういうのあるよね。特に作業しながらラジオ聞いてると曲紹介の部分聞き逃したりしちゃうもんなぁ。」 「そうなんです。この間もいいなって思った曲があったんですが、結局曲名が分からなくて……洋楽だったんですけど。」 「嵐山が気にいった曲ってどんなだろ。CDショップの視聴コーナーにないかなぁ。ラジオの新譜紹介だったとしたら、視聴コーナーにある可能性大だよね。」 「そうですね。たぶん先月出た新曲だと思います。そんな感じのことをラジオで言っていたような……。」 「へ～、先月か。たしかに、先月色々リリースされてたな。俺もいくつか気になったやつあったもん。」 　白金君はそう言いながら、僕が全部食べ終わったのを確認すると僕のトレイごと片づけてくれた。そして僕を手招きしてお店を後にする。 ―――こんなふうに自然にエスコートできる白金君って、きっと女の子にモテるんだろうなぁ。 　わざとらしさや恩着せがましさが一切なくて、それなのに当たり前のようにリードしてくれる。白金君は「女の子なら一度はこういうふうに接してもらいたい」と思うような接し方が本当に上手だ。 ―――そういえば、前に神田さんが「まだ特定の相手作らずふらふらしてるの？」的なことを言ってたっけ……。 ……今もそうなのかな？