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第45話
いきなり自分に返ってきた質問に、僕はびっくりして足を止めてしまう。白金君はくすっと笑いながら僕を手招きして雑貨屋さんに入った。そして商品をあれこれ見ながらさらにこう言った。
「嵐山はどんな人がタイプなの?」
「え、えっと……。」
―――どうしよう。
人とそんな話したことない。
というか、僕の場合、同性に好みの男性のタイプを話すってどうなの?
話されたほうも反応に困るんじゃ……。
僕が考え込んでいる様子を面白そうに眺めていた白金君は、手近にあったぬいぐるみを持ち上げ、それから悪戯っぽく微笑む。
「そういうの聞くのってマナー違反?」
「い、いえ、そういうわけじゃ。……あの…………優しい人が好きです。あとは自分とペースが合う人というか……。」
「あー、それは分かるかもしれない。自分とテンションが合うって大事だよね。」
「そうです、テンションが合う人。そういう人はいいなって思います。」
「なるほどなぁ、じゃあ嵐山は内面重視なんだ?」
「ど、どちらかといえば……。」
こんなふうに恋愛の話を人としたことがなかった僕は、初めての経験にどきどきしていた。
―――いつか友達とこういう話をしてみたいって思ってたけど、まさかそれが叶うなんて。
僕が同性に恋愛の話をしてしまうと、嫌がられたり警戒されたりすることは明らかだ。どういうわけか「男ならだれでもいい」って思われているので、しかたがないといえばしかたがないのかもしれない。
でも白金君は僕と話していても警戒したり、軽蔑するような素振りは一切見せなかった。僕がゲイだということを知っているのにも関わらず分け隔てなく接してくれるのはありがたいけれど、少しだけ不思議だ。
―――抵抗ないのかな?
そんなことが気になって言葉少なになる僕に、白金君は思い出したように言う。
「そういえば、ハンドタオルが欲しいって真帆が言ってた。」
「ハンドタオルですか?」
「うん。学校で流行ってるやつがあるらしくて。猫の形してるらしいんだけど。」
「猫の形……あ、もしかしてあれかな……。」
「え?心当たりある?」
「は、はい。たぶんですけど。」
ちょうど今朝、登校中になにげなくスマートフォンで情報サイトを見ていた時、猫の形をしたハンドタオルについての記事があったのだ。きっと真帆ちゃんが言っていたのはそれのことだろう。
―――あ、もしかして、僕って今初めて白金君の役に立ててる?
今まで白金君に助けてもらってばっかりだった僕にとっては、こんな些細なことが言いようもないほど誇らしい。白金君によくしてもらってばっかりで、なにも返せない自分にがっかりしていたけれど、僕なんかでも少しくらいは役に立てる。それがこんなにも嬉しい。
僕は白金君を連れ、情報サイトで見た女の子向けブランドのお店に入る。男二人で入店した僕らを見て店員さんは目をしばたいた。その視線にちょっぴり恥ずかしくなりながらも、僕は小物が並んでいる棚に目を走らせる。
―――猫の形をしたハンドタオル……あ!
「あった!白金君、ありました!」
思わず大きな声をあげ、僕は見つけたタオルを白金君の前に差し出す。白金君は大きな目を丸くして、ふっと表情を緩める。
―――あ、ぼ、ぼく、なにはしゃいでるんだろ。
見つけられたことが嬉しくて、つい我を忘れてしまった。人がいっぱいいるこんなところでこんな大きな声を出すなんて、いったい僕はなにをやっているんだろう。白金君だって驚いたはず。
「あ、ご、ごめんなさい、僕、」
「嵐山は探し物が上手だね!」
「え?」
白金君はタオルを手に取り、目を細める。
「そっか~、これが真帆の言ってたやつか。たしかに、これは流行るのもわかるなぁ。」
―――あ、あれ?
引かれてない……?
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