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第2話
「あ、あの、ごめんなさい、でも、僕……あの、お願いします。」
もう一度言うと、銀髪の人に呆れ顔でため息をつかれてしまう。
「だいたいさぁ、普通初対面の人をセックスに誘うー?例えセックスが最終目的だったとしても、とりあえずはカラオケとか飯とか誘うもんじゃない?」
「ご、ごめんなさい。」
慌てて謝った僕ににこっとほほ笑みかけ、銀髪の人はスマートフォンを弄り続けながら尋ねてきた。
「ねえ、いっこ気になってたことあるんだけど、聞いていい?」
「あ、は、はい?」
スマートフォンをポケットにしまった銀髪の人は、僕の顔を覗き込んできた。いきなり近づいた顔と顔に吃驚して後ずさると、銀髪の人は僕の顔を指差した。
「その顔の怪我ってどうしたの?」
「……こ、これは……なんでもないです。」
反射的に頬のガーゼを押さえる僕を見て、銀髪の人は苦笑いをこぼす。
「えー、でもガーゼに血が滲んでるじゃん。なかなか顔なんて怪我しないと思うけどなぁ。」
「へ、平気です!なんでもないんです、本当に。」
「なに、喧嘩?大人しそうな顔して、結構荒事が得意なタイプ?」
「ち、ちがいます!僕はそんな、喧嘩とか……!」
否定の言葉をあれこれ重ねてみたが、銀髪の人は納得してはくれなかった。まじまじと僕の顔を覗き込み、次にいきなり僕の手首を掴んだ。
「痛っ!」
握られたところに鈍い痛みが走る。そんなに強く掴まれたわけでもないにも関わらず声を上げてしまったのは、ほんの一時間前に手首をきつく縛られていて、今もなお血が滲んでいたからだった。
紐の痕が幾重にもついている僕の手首をじっと見ていた銀髪の人はそっと手を離し、うすっぺらなクラッチバッグの中身をごそごそと掻き回す。
―――このバッグがスクールバッグ代わりなのかな?
教科書とかノートとか入らなそう……。
僕がそんなことを考えているのをよそに、銀髪の人は鞄の中で何かを探し続けていた。そして急にぴたりと手を止めると、にっこり笑って何かを僕に差し出す。
「ラッキー、二枚だけあった。」
「あ……こ、これ……?」
差し出されたのは花柄の絆創膏だった。ピンクと水色の綿菓子のような色をした絆創膏に戸惑っていると、銀髪の人は絆創膏の袋を無造作に破り取って、僕の手を取った。
「ほら、袖まくって。」
「え?あ、は、はい、すいません。」
言われた通りに袖を引っ張り上げると、血が滲んでいたところに絆創膏がぺたりと貼り付けられる。血色の悪い肌と明るいピンク色のコントラストはなんだか奇妙だった。
「従姉妹からもらったやつだからやたらと可愛い柄だけど、別に気にしないでしょ?」
僕の返事を待つこともなくもう一枚の絆創膏を傷の上に貼り付け、銀髪の人はにっと歯を見せた。
―――意外と人懐っこい笑顔……。
「す、すいません。ありがとうございます……。」
「ん、どういたしまして。」
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