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第4話
楽しげで軽快な声色とは裏腹に、言葉の内容は物騒だった。三人はびくっと体を震わせ、顔を見合わせる。その様子を確かめた銀髪の人は通話終了のボタンを押し、僕にスマートフォンを返してくる。そして僕の手を掴んだ。
「行くよ。」
―――行くって、どこに?
そんなふうに聞き返す間もなく、銀髪の人は三人組のところに僕を連れて行った。三人は逃げ出すか留まるか迷った挙句、結論が出る前に銀髪の人に捕まってしまったようで、僕を憎々しげに睨んでいた。
「なにしてたのー?」
そう尋ねられた三人組は互いに返答役を押し付けあうかのように肘で小突きあっていた。結局、一番立場が弱いやつが前に押し出され、銀髪に人に答える。
「べつに、ちょっとダチ同士で遊んでただけですけど。」
「ダチ同士って、誰と誰?」
「っ、俺らと、そいつです。」
僕を指差したやつは、間髪入れずにいった。
「そいつの発案なんすよ。」
―――え?
吃驚して声が出せない僕に気がついた残りの二人も、急に勢いづいて言った。
「そうそう、そいつが言いだしたんです。」
「ちょっとからかってやろうって。」
「俺たちはとめたんすよ?」
―――そうか、僕に罪をなすりつけて逃げるつもりなんだ。
本当は違う。
全然違う。
「『僕とセックスしてください』って声かけて来い。やらなきゃ殴る。」って脅されて、仕方なく声をかけたのに。
だけど……だけど、それをここで言ったら、あとでまた殴られるはずだ。
すると、何も言えないまま俯く僕の頭を三人のうちの一人が思い切り叩いた。
「っ……いたい……!」
「おい、お前謝れって。」
「そうだよ。なに俯いてんだよ。」
「お前が言いだしたんだろうが。おい、何とか言えよ!」
三人の中で一番立場の強いやつが、そう言いながらもう一度拳を振り上げた。僕はぎゅっと目をつぶって身構える。
―――大丈夫、痛いのは一瞬。
いつからか頭の中でこう唱えることが癖になっていた。
―――大丈夫、痛いのは一瞬。
我慢できないほどは痛くない。
ところが、いつまでたっても拳はふってこなかった。不思議に思って恐る恐る目を開けると、銀髪の人が僕に向かって振り下ろされるはずだった手を掴んでいた。
―――え……?
なんで?
戸惑う僕同様、三人組も戸惑っていた。全員顔が強張り、目が泳いでいる。とくに腕を掴まれているやつは今にも逃げ出したそうに腰が引けていた。
「誰が言いだしたかなんて聞いてねえんだよ。俺が聞いたのは『なにしてたの』だろ?お前らがなにしてたか聞いてんの。」
そう言いながら銀髪の人があまりに綺麗な顔で笑うものだから、三人はぽかんと口を開けたまま数秒の間硬直した。垂れた目尻を眇めてほほ笑むその顔はたしかにとても綺麗なのだが、全身を氷漬けにされそうな迫力がある。笑顔を向けられていない僕でさえ、思わず生唾を飲み込んでいた。
三人はじりじりと後ずさりして、互いの顔を不安げに見やった。誰もが何かを言いたげな表情だったが、何も言えないどころか声すら出ないようだ。銀髪の人は大きな舌打ちをすると、シルバーリングがはまった指をパキッと鳴らす。その二つの音にびくっと震えた三人組はもごもごと言い訳らしきものを口にした。しかし銀髪の人はその言葉をまるで聞いていないようで、薄ら笑いを浮かべながら三人組をじっと眺め続ける。
―――物騒なことや乱暴なことを言うより、黙って笑っている方がずっと怖いんだな……。
大声で強そうなことを言うやつは結局のところ自分より弱い人間にしか強く出られないと聞いたことがあるけど、まさにその見本を目の前で見せられている気分だ。
「おい、冴。」
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