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第5話
いきなり新しい声が僕たち五人に間に割って入ってきたことで、銀髪の人が凍らせた空気が溶けた。三人組ははっと我に返り、新しい声の主のほうに視線をやる。僕もつられるようにして声がしたほうを見て、すぐに後悔した。
―――また怖い人が増えた……。
銀髪の人の隣に立ったのは、蒼秀学園の制服を着た背の高い人だった。髪をハーフアップに結び、前髪には赤いメッシュが入っている。そのうえ、耳と左眉の眉尻にピアスが開いていた。鋭い目つきと表情の乏しい顔からは何を考えているのか察することができず、笑顔が怖い銀髪の人とは対照的だ。もっとも、「怖い」ことには変わりがないけれど。
「あ~!啓一おせえよ~。」
銀髪の人は啓一と呼んだ背の高い人の背中をばしばしと叩いて、人懐っこく笑った。それはさっき僕に見せた笑顔と同じ笑顔だった。
―――冴って言うんだ、この人。
「冴」に啓一と呼ばれた人は三人組と僕を見て、それから「冴」を見てため息をついた。
「なに、こいつら。」
「よく分かんなーい。暇なんじゃない?」
「まあ、お前にわざわざ絡んでるんだから、そうなんだろうな。」
「啓一」は三人組を見おろし、冷めた表情で言う。
「こいつに喧嘩でも売ってるなら、俺がかわりに買うけど?」
「や、喧嘩とかじゃないんで……。」
「ちょっとした誤解があっただけっす。本当に。」
「俺たちもう帰るんで。おい、行こうぜ。……お前も来い。」
三人組のうちの一人が僕の手首を掴む。絆創膏を貼ってもらったところを上から思い切り掴まれ、鈍い痛みに顔が歪んでしまう。声をあげたら殴られると思い、歯を食いしばって痛みに耐えたが、それでも呻き声が漏れてしまった。
「はーい、ちょっと待った。」
「え?」
その時、「冴」が僕の肩を抱くようにしていきなり引き寄せた。三人組は「冴」の行動に驚いて目を見開く。僕も驚きを隠せず目を丸くする。ただ一人「啓一」だけは平然としていた。というより、少し呆れているようにも見えた。
「この子には別に話があるから置いていってもらうよ。はい、じゃあ用がない人は帰ってね~。」
「冴」の言葉に三人組がざわつく。僕も予想していなかったことを急に言われたので、どう返事をしていいか分からずに反射的に首を横に振る。
「え、あの、僕は、」
「いいからい、いいから。」
「で、でも!」
僕がなおも色々と言うのを流し、「冴」は「啓一」の方を向く。
「啓一、遅刻のお詫びにご馳走してくれる気ない?」
「ない。」
ぴしゃりと言われたにも関わらず「冴」はけらけらと朗らかに笑うだけだった。
「じゃあ自腹だなぁ。なに食う?」
「なんでもいい。」
「じゃあまたハンバーガーでいいか。君もそれでいい?」
「え?ぼ、僕ですか?」
「そう。他に食べたいものあればそこでもいいけど。」
「い、いえ、ないです、その、でも、僕は……。」
「着いてこないっていう選択肢はないからね。」
「っ……。」
どうやら言葉を挟む余地はない。「冴」の中ではもう決定事項のようだ。「冴」はよく分からない人だ。人の話を聞いてはくれないけれど、威圧的というわけでもない。それに、さっきから怪我をしているところには触れないように気を使ってくれている。
―――優しい人、なのかな……?
いまいち自信が持てなかったけれど、悪い人ではないような気がしてきた。少なくとも、噂であれこれ聞いてきたイメージとはずいぶん違う。
三人組は僕だけ置いていくことを避けたそうだった。僕が余計なことを言うのを恐れているのだろう。
「余計なこと言ったらどうなるか分かるだろうな。」
そう言いたげな目でじっと僕を睨んでくる。僕はその視線を真正面から受け止めることができなくて、黙って俯いた。
「よし、行こっか!」
「冴」は三人組の視線の意味を知ってか知らずか、僕を連れてさっさと歩きだした。残された三人は呆然とした様子で、その場に立ち尽くしていた。
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