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第6話

 「冴」はしばらく歩くと僕から離れ、そのかわりに「啓一」に寄り掛かる。横から体重をかけられて歩きにくそうな「啓一」だったが、「冴」を押しのけることはしなかった。 「あ~、腹減った~。」 「冴」の言葉に、「啓一」がほとんど唇を動かさないままぼそりと漏らす。 「間食し過ぎるとまた夕飯食えなくなるぞ。」 「大丈夫だって。今日はめちゃくちゃ腹減ってるから。」 「この間も同じこと言ってただろ。」 「そうだった?」  この二人が気心が知れた仲だということは、やり取りを聞いていれば分かる。きっと、普段から仲がいい二人なのだろう。そうなるとますます僕は異質な存在だ。どうして連れてこられたのかが全く分からない。 ―――もしかして、実はすごく怒っているとか……。 いきなり見ず知らずのやつに街中で「セックスしてください」なんて声をかけられたら、吃驚もするし不快にもなるはず。 じゃ、じゃあ、お詫びに奢れとか……? 「あ、あの。」  恐々口を開くと、「冴」と「啓一」が同時に僕を振り返った。 「なに?」 「あ、あの、僕、お金、あんまり持ってなくて……そ、その、これしかないんです!」  口で説明するよりも実物を見せた方が諦めてもらえるのではないかという淡い期待のもと、僕は自分の財布を開いて二人の前に突き出した。千円札が一枚と小銭が何枚か入った財布を見て、「冴」は首を傾げる。 「えっと、そうなんだ?それで?」 「え?あ、だ、だから、僕、この分しかお金払えないので、だから……。」 「ハンバーガー食うのに千円も使わなくない?」 「え?だ、だけど……。」  きょとんとする「冴」と慌てる僕を見比べ、「啓一」はため息交じり言った。 「奢れって言われてると思ったんじゃないか?」 「え!奢れって、誰が誰に?」  「啓一」は僕を指差したあとに「冴」を指差す。それを見た「冴」は目を丸くしてから、突然噴き出した。 「あははは!俺、奢ってもらおうなんて考えてないよ?」 「え?じゃ、じゃあ、なんで僕のこと……。」 「なに、この後予定でもあるの?」 「い、いえ、ないです。でも、」 「じゃあいいじゃん。」 にこっと笑った「冴」はバーガーショップを見つけると、僕らを置いて駆けて行ってしまう。 ―――やっぱり、全く分からない。  見かねたように口を開いたのは「啓一」だった。 「あいつとまともな会話しようとするだけ無駄だから、気にしないほうがいい。」 「え?あ、は、はい……。」 「ああいうやつなんだよ。」 それだけ言い残し、「啓一」も店の中に入っていってしまう。 ―――ああいうやつ、って言われても……。 僕の理解の範疇を完全に超えてる……。  一瞬、ここでこっそり帰ってしまうのも一つの手だという思いが頭をよぎった。しかしそんなことをして、後でどうなるかを考えるとぞっとする。さっきのあの怖い笑顔で見下ろされ、優しい声で「なんで勝手なことしたの?」なんて聞かれるかと思うと膝が震えてきた。 ―――逃げたら、きっともっと怖い。

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