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第7話
自分にそう言い聞かせて店の中に入った僕は、カウンターで注文をしている「冴」と「啓一」の後ろにそっと立った。僕に気が付いた「冴」はメニュー表を指差して言う。
「ねえ、君はなに頼む?」
「あ、ぼ、僕は……。」
―――どうしよう、こういうところ来るの久しぶりだ。
なにを頼めばいいのか全然思いつかない。
「あ、えっと……。」
―――二人は何を頼んだんだろう?
二人が頼んだものより時間がかかるものを頼んだりしたらイラつかれないだろうか?
セットメニュー、夕方限定メニュー、学割メニュー、期間限定商品……。
飲み物だけ?
それとも、なにか食べたほうがいいの?
ああ、どうしよう。
こうして悩んでいる間も、二人を待たせている、
どうしよう。
どうしよう。
「なんだなんだ、そんな深刻に悩むところー?」
くすくす笑った「冴」は僕の背中をとん、と優しく叩く。てっきり怒られるかと思っていたところでそんなふうに優しく触られるなんて想像もしていなかったので、僕は言葉に詰まってしまう。
「飲み物、炭酸とジュースとコーヒー、どれがいい?」
「あ……えっと、じゃあ、ジュースを……。」
「じゃあオレンジジュース一つ、Mサイズで。腹減ってる?」
「い、いえ、そんなに……。」
「ポテトのSサイズくらいなら食べられる?」
「あ、は、はい。たぶん……。」
「じゃあそれお願いしまーす。」
店員さんに注文を伝えた「冴」は僕に自分の鞄を押し付け、二階に続く階段を指差した。
「席とっておいて。」
「あ、でも、お金、」
「あとでちょうだい。もちろん、君の分だけね。」
からかうような口調で言った「冴」にまたしても背中を押され、僕は口を挟む隙も与えられずに階段を上った。
―――よく分からない人けど、すごく優しい触り方をする。
それだけは確かだ。
こんなふうに人から優しく触られるのは久しぶりだった。殴られたり、絞められたり、引っ張られたり、押し倒されたり。いつもはそんなことばかりだ。「誰かに触られる」ということは「痛い」こと。もう随分長いことそうだった。
頬に貼ったガーゼを撫でると、口の中までずきずきと痛んでくる。
―――もしかしたらオレンジジュースを選んだのは失敗だったかもしれない。
口の中の切り傷はほとんど塞がっていたけれど、今朝口の中に「あるもの」を突っ込まれたせいで少し傷が開いていた。深く考えずに選んでしまったけれど、きっと傷口にしみるはずだ。
そんなことを考えていると、階段を二つの足音が上ってきた。
「あ、なんだ、全然人いないじゃん。ラッキー。」
「冴」はそう言いながら僕の前にジュースのカップとポテトが置かれたトレイを差し出す。
「はい、君の分。」
「あ、ありがとうございます……。あ、お金、いくらでした?」
「クーポン使って300円。」
「クーポン……。」
「ん?」
「あ、いえ……。」
「なに?怒らないから言ってみなって。」
「…………クーポンとか使うんだなって……思って……。」
「へ?」
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