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第8話

―――失言だったかもしれない。  咄嗟にそう思った。きょとんとした顔の「冴」の口から次にどんな言葉が出てくるのかを考えると怖くなった。「怒らない」とは言っていたけれど、話の内容によっては怒られるかもしれない。  「冴」は「啓一」を見て肩を竦める。 「結構使うよね、啓一?」 「そうだな。」 「そ、蒼秀学園の生徒さんだから、あまり使わないのかなって、そう思って、それで……すいません、失礼なこと言って。ごめんなさい。」 僕の弁解の言葉を聞いた「冴」は明るく笑った。 「あはは!謝るようなことじゃないよ。たしかに、うちの学校金持ち多いもん。でもクーポンくらい普通に使うって。だって、自分たちで金稼いでるわけじゃないし。」 「そ、そうですね。た、たしかに……。」  僕の隣に腰を下ろし、「冴」はハンバーガーの包みを開けながらおもむろに言う。 「そういえば、名前聞いてなかったね。なんていうの?」 「あ、え、えっと、嵐山涼です。」 「嵐山涼クンね。俺は白金冴。こっちは本郷啓一。」 「白金さんと、本郷さん……。」 「何年生?」 「さ、三年生です。」 「なんだ、同い年じゃん。じゃあさん付けやめようよ。嵐山って呼んでいい?」 「あ、は、はい。」 「俺たちのことも呼び捨てでいいから。」 「え?!いや、それは、ちょっと……よ、呼び慣れていないので、あの……。」 「じゃあさん付け以外なら何でもいいや。」 「え、ええと……えっと……その……じゃあ、白金君は……?」 「うん、いいよ。よし、じゃあお互いの名前が分かったところで飯食おうか!」 「は、はい……。」  満足げにほほ笑む長柄大口を開けてハンバーガーを頬張った白金君に、本郷君が尋ねる。 「名前が分かったのはいいけど、そもそもこれとはどういう関係なんだ?」 「これ」というのはどうやら僕のことらしい。白金君は唇の端についたケチャップを拭い、肩を竦めた。 「よく分かんない。啓一のこと待ってたらいきなり声かけられた。『セックスしよう』って。」 「はあ?」  ほとんど動かなかった本郷君の表情が明らかに胡散臭そうに歪む。僕は慌てて言った。 「ち、違うんです、あの、あれは……!」 ―――あれは命令されてやったことだと言って納得してもらえるだろうか。 そもそもそれを口にしたことがさっきの三人組にばれたら、明日学校でまた殴られるかもしれない。 「あれは……。」  言いよどむ僕を見かね、白金君が口を挟む。 「まあ、別にそこはどうでもよくない?啓一だってクラブ行くとよく声かけられてるじゃん。」 「女にな。男に、それも真昼間に声をかけられたことはない。」 「そ?」  適当な相槌を打ち、白金君はもぐもぐと口を動かす。そして口の中のものを飲み込むと、本郷君のポテトに手を伸ばしながら言う。 「でも声かけてきたときに明らかに怯えてたし、なに聞いてもなかなか答えないし、たぶん本人がやりたくてやったことじゃないと思うよ。」 「え?」  驚く僕ににっこり微笑みかけてから、白金君はさらに言葉を続ける。 「あの三人組にでも言われたんじゃない?俺のことからかってこいって。嵐山が俺としゃべってる間ずっとスマホが通話状態になってて、その通話相手はあいつらだったしね。離れたところで様子見てにやにやしてたんだろ。」 「なんだそれ。」  呆れ顔の本郷君は、話の正誤を確かめるかのように僕に視線を向けたが、僕はその視線を受け止められずに顔を伏せてしまった。

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