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第11話

 二人の表情はみるみるうちに固まり、白金君の手が止まった。 ―――やっぱり引かれた?  言われたことを鵜のみにしてとんでもないこと喋ってしまったのかもしれない。少し考えれば、僕が今口にしたことは軽々しく人に話してはいけない類のことだとすぐに分かる。 ―――どうしよう。 いくら親切にしてもらったからって、この二人とは今日が初対面なのに。 「す、すいません、僕……あの、気持ち悪いですよね。わ、忘れてください。」 「……一回だけ?それとも何回も?」  微かに震える声で白金君が尋ねてきたので、僕は半ばやけくそになって正直に答えた。 「去年の夏くらいから何度もです。数えてないので回数は分からないですけど。」 本郷君は白金君をちらっと見てから僕に言う。 「そのことも人には言ってないんだ?」 「は、はい。男なのに男にレイプされてるなんて言えなくて……そ、それに大丈夫です。もう慣れましたから……お、男だから、妊娠もしないですし!」 無理矢理明るく言った僕の背中から手を離し、白金君は俯いたまま席を立った。 「ちょっと……顔洗ってくる。」  本郷君にそう言い残してトイレの方へ歩いていってしまった白金君を恐々見ていると、本郷君がため息をついた。 「あいつ、ああ見えて正義感強いんだ。とくにいじめられてるやつとか見過ごせない性格なんだよ。」 「そ、そうですか……。僕が変な話しちゃったせいで気分悪くさせちゃいましたよね。ごめんなさい。」 「別に、気分は悪くなってない。あいつの場合はブチ切れてるだけ。」 「ぶ、ブチ切れてる?」 「『理不尽な痛み』が我慢できない性格だから。」 「は、はあ……。」 本郷君は自分の飲み物と僕の飲み物を見比べ、唐突に言う。 「交換する?」 「え?」 「それ、口の中しみるんじゃないの。アイスティーなら少しはましだろ。まだ口つけてないから。」 「あ……あ、ありがとうございます……。」 ―――本郷君も怖い人ではないみたい……というか、たぶんいい人だ。  本郷君に交換してもらったアイスティーを飲んでいると、白金君がトイレから戻ってきた。顔を洗った時に濡れたと思われる前髪をぐいっとかきあげた白金君は、さっきよりもぎこちなく笑う。なんだか無理に笑っているみたいだ。 「ごめんね、途中で話ぶったぎっちゃって。」 そう言いながら元の席に腰を下ろした白金君に、僕は頭を下げる。 「いえ……僕こそごめんなさい。いきなり変なこと話して。」 「嵐山が謝ることじゃないでしょ。」  きっぱりとした口調で言った白金君は、深いため息をついて頬杖をついた。 「外野の俺があれこれ言うべきじゃないのは分かってるけどさ、でも嵐山がされてることっていじめの域を超えてると思うよ。異性だろうが同性だろうがレイプはレイプ。犯罪だから。」 「そ、そうかもしれないですけど……。」 「人に言いたくないっていう気持ちも分かる。人に話して辛い思いをしたり、傷ついたりするのは嵐山だもんね。俺は泣き寝入りするべきじゃないと思うけど、決めるのは嵐山本人だし。……うーん、だけどなぁ……。」  ぐしゃぐしゃと髪をかいた白金君は本郷君に寄り掛かり、またしても深いため息をついた。 「啓一だってこんなのおかしいと思うだろ?」 寄り掛かられた本郷君はそのまま相槌を打つ。 「まあな。」 「同じ学校だったら庇ってあげられるんだけどね……。まあ、うちの学校にいじめとかするやついないけどさ。北高に知り合いいたかなぁ?なんか一人くらいはいたような気もするんだよなぁ。」

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