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第14話
「自分で言うやつがいるか」という本郷君のツッコミを聞きながら、僕は言われたことを頭の中で反芻する。
―――「友達にならない?」って言われた……?
僕が?
それも白金君に?
だって白金君は僕とは全然タイプが違うし、僕なんかと友達になっても白金君にはなんのメリットもない。
「あ、あの……。」
「ん?」
「どうしてですか?」
「え、理由なんている?」
「へ?」
「友達になってみたいと思ったから、『友達にならない?』って言った。それだけなんだけど。」
「それだけ……。」
「そう、それだけ。」
にっと笑った白金君は本郷君の腕を引っ張り、僕の前に突き出す。
「あと、今なら啓一ももれなくついてくる。」
「人を通販の商品みたいにいうな。」
呆れ顔の本郷君と、人懐っこく笑う白金君。二人の前にいる僕は、地味で、おどおどしていて、人の目をちゃんと見て話すこともできないような人間だ。
―――そんな僕でもいいんだろうか?
「で、でも……。」
白金君は手をひらひら振って僕の言葉を遮った。
「『でも』はなし!『はい』か『イエス』の二択。」
「どっちも同じだぞ、それ。」
本郷君のツッコみを意に介さず、白金君は悪戯っぽく笑う。
「だって『いいえ』って言われたら悲しいじゃん?」
「それ答え聞く意味あるのか?」
「あるよ。ね、嵐山?」
握りしめた拳が震える。僕はすごく緊張していた。拳の中で手のひらに汗をかくほどだ。心臓は眩暈がするほど騒がしくて、白金君や本郷君にもその音を聞かれているんじゃないかという気になってくる。
―――いいのかな……。
僕なんかが「友達」だなんて……。
言葉にできない罪悪感のようなものは、僕の唇を強張らせた。答えてしまった後が怖い。その先がなにも想像できなくて、頭の中は真っ白だ。
―――だけど、
「と……友達、なりたいです。」
震える声で絞り出した一言。自分で発したその一言に、自分が一番吃驚した。
「うん、なろ。」
白金君が軽やかに言って僕に手を差し出す。恐る恐る差し出された手に自分の手を重ねると、強く握りしめられた。
手のひらからじわりと伝わる体温と、ごつごつした骨の感触と、優しい痛み。いっぺんに押し寄せてきたそれらに、僕はどんな顔をしていいか分からなくてただ俯く。
白金君はくすっと笑って「顔上げて」と言う。促されて顔を上げた先には、銀色の髪と、人懐っこい笑顔が待っていた。
「よろしくね。」
―――こんな時、なんて返せばいいんだろう?
もうずっと「友達」がいなくて、「友達」との接し方を忘れてしまった僕は、結局何も言えない。せめて少しでも気持ちが伝わればいいと思い、握りしめられている手をぎゅっと握ってみる。
そんなことでは伝わらなかったかもしれない。けれど、それが今の僕にできる精一杯だった。
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