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第16話
「おい!校門のとこにいるの、あれって蒼秀学園の『ヤバいやつ』じゃね?」
「なあ、あの銀髪と赤メッシュって……。」
「おい、あれ大丈夫かよ……。」
「うわ、あの噂になってるやつらじゃん……。」
―――まさか。
半ば信じられなくて、僕は人だかりを避けて廊下の窓に近づく。すると、校門のところに白金君と本郷君が立っていた。二人はスマートフォンをいじりながら時折なにか言葉を交わしている。
―――まさかとは思うけど、僕に用事……?
いや、そんなわけは…………。
でも……。
僕は鞄を胸の前で抱え、急いで下駄箱へ向かった。そして靴に足をつっこみ、足をもつれさせながらもなんとか校門まで走る。
よたよたと走って近づいてく僕に先に気が付いたのは本郷君だった。本郷君は隣の白金君を小突き、僕のほうを指さす。すると白金君はぱっと明るい表情になってぶんぶんと手を振ってきた。
「嵐山ー!おつかれ~!」
―――ど、どうしよう。
やっぱり僕に用事だったみたい。
「あ、あの、白金君、どうしてここに……?」
びくびくしながら尋ねると、白金君は例の人懐っこい笑みを浮かべて答える。
「嵐山と一緒に帰ろうかと思って。」
「え?で、でも、うちの学校は駅と反対方向で……。」
「うん、だから迎えに来た!今日は啓一も部活ない日だから一緒に連れてきたんだよ~。」
「そ、そうですか……あ、あの、遠回りなのに、ごめんなさい。」
「なんで謝るの?俺たちが勝手に迎えにきたんだから、嵐山が謝る必要ないでしょ。」
けらけら笑っていった白金君は、僕の背後をちらっと見て鼻で笑った。
「まるで見世物だなぁ。」
そう言われて振り返ってみると、廊下の窓や校庭から野次馬たちの無数の視線が僕らに注がれている。
すると、いきなり白金君が僕の肩に腕を回してきた。
「わっ、な、なんですか?!」
「見せつけておこうと思って。」
「み、見せつける?誰に?」
「嵐山のこといじめてるやつら。ほら、嵐山ももっとこっちくっついて。」
「だ、だめですよ!そんなことしたら白金君まで『ホモ』って馬鹿にされるかもしれないですし……。」
「別に構わないけど?」
「か、かまわなきゃだめです!僕のせいで白金君が悪く言われる必要なんてないんですから。」
「だって、俺すでにヤクザの息子だとか、ヤリチンだとか言われてるんでしょ?」
「それはそうですけど……。」
「男を好きで何が悪いの?そんなことを悪く言うやつらのほうがおかしいんだよ。だからほら、嵐山ももっとじゃれてきなって。」
「じゃ、じゃれてって言われても。」
白金君は僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわし、最後にぷっと噴きだした。
「ははっ、髪ぐっちゃぐちゃになっちゃった。嵐山の髪ってまっすぐで細くてさらさらしてるね。」
「く、くすぐったいです……!」
「ごめんごめん。あ、そうだ、俺の髪もぐちゃぐちゃにしていいよ!」
「はい?!」
「それならおあいこじゃん?はい、どーぞ。」
―――どうぞって言われても……!
白金君は体を屈め、僕の前に頭を出す。どうしていいか分らなくてすがるような気持ちで本郷君を見てみたけれど、本郷君は声に出さず「どんまい」と言うだけだ。そしてそうしているうちにも白金君が手持無沙汰そうに頭を揺らす。
「嵐山ー?まだー?」
―――も、もう、どうにでもなれ!
意を決した僕は白金君の頭に手を伸ばす。そして慎重に髪の毛の先に触れた。
「あ……。」
「ん?どうした?」
白金君は顔を上げ、期待に満ちた目で僕を見上げる。
「あ、い、いえ、あの……思ったよりも柔らかくて。あと、なんかいい匂いがします……。」
「ああ、ワックスかな?今使ってるやつがやたらと甘い匂いするんだよね。」
そう言って体を起こした白金君は、いきなり僕のほうに顔を近づけてきた。
「っ、え、あ、あの……?」
「嵐山の匂い、俺結構好きだよ。」
「え!?で、でも、僕とくになにもつけてないですけど……。」
「シャンプーの匂いかなぁ?なんか清潔感のある匂い。」
「は、はあ……。」
―――うちのシャンプーは近くのドラックストアで買ってる安いやつだから、特別いい匂いがするわけじゃない。
……きっと気を使って言ってくれたんだろうな。
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