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第17話
白金君の気遣いを無駄にしないような気の利いた返事をしたかったけれど、生憎うまい言葉を思いつけず、結局僕はもごもごと曖昧な相槌しか打てなかった。
―――もっとうまいことを言えたらいいのに……。
こういうところに人付き合いの経験値の低さが出てくるなぁ。
ついしょんぼりしてしまう僕の顔を覗き込み、白金君は首を傾げる。
「どうしたー?なにしょぼくれてんの?」
「しょ、しょぼくれてるというか……あの、ごめんなさい。」
「ん?なにが?」
「僕……面白いことなにも言えなくて……。」
すると白金君はぷっと噴き出し、僕の背中をぽんぽんと叩いた。
「それ、謝るようなこと?俺だって別に面白いことなんて言えてないし、啓一なんてそもそもほとんどしゃべらないよ?」
「俺が喋らないのは、お前の舌がべらべらよく回るせいだ。」
本郷君にツッコまれた白金君はくすくす笑いながら肩を竦める。
「そのくせこういうツッコみは冴えてるんだよね。」
「二人は息ぴったりというか、その……すごく仲が良さそうです。見た感じの印象ですけど……。」
僕がそう言うと、白金君は本郷君と一方的に肩を組んでにっこり笑う。
「だって、幼馴染だもん。な、啓一?」
「腐れ縁のな。」
「はいはい、愛のあるツッコみをいつもありがと。」
―――なるほど、幼馴染だったのか。
どうりで仲がいいわけだ。
なんだか納得してしまうと同時に、少しだけ肩に入っていた力が抜ける。僕は昨日二人と出会ったばかりなのだ。幼馴染である白金君と本郷君がしてるような会話をすぐにできるわけもない。
―――「友達」二日目なんだから、きっと白金君も本郷君も僕に期待はしていないはず。
そう思うと、僕はさっきよりもずいぶんリラックスして話を切り出すことができた。
「あの……本郷君は普段は部活があるんですか?」
「ああ。」
短く答えた本郷君は、肩に背負っていた長い袋のようなものを僕に見せる。
「ラクロスやってるんだけど、今日はグラウンドに業者が入ってて練習できなかったから。」
「ラクロス?珍しい部活があるんですね……。」
「うちの学校多いんだよ。他の高校がほとんどやってない部活とか同好会が。」
白金君が本郷君の言葉を補うように指で数えながら言った。
「アーチェリー、ヨット、馬術、射撃、あとはなにがあったかなぁ……。」
「し、白金君は、なにかやってるんですか?」
「俺は帰宅部兼フェンシング部!」
「フェンシング?な、なんか、に、似合いますね。」
「あははっ、そうかー?そんなこと初めて言われたけど。まあ、そんなに強くないんだけどね。ほら、おっきいハンデがあるから。」
そう言った白金君が笑いながら眼帯で覆われた右目を指すので、僕は思わず言葉に詰まる。
―――ハンデってことは、一時的な怪我とか病気じゃないのかな……?
で、でも、聞いていいんだろうか……?
いきなり聞いたら失礼じゃ……でも白金君が話題に出したんだし……いや、でも……。
「どうしたどうしたー?また考え事?」
白金君は体を屈めて僕の顔を覗き込んでくる。どうやらこれは白金君の癖らしい。ちょっと気を抜くたびに綺麗な顔が目の前に急に近づいてくるのは、ひどく心臓に悪い。それに、なにより緊張する。
「そ、その……。」
「目のこと?」
事もなげに聞き返してきた白金君に頷くと、白金君は明るく笑いながら教えてくれた。
「子供の頃の事故で怪我しちゃって。右目見えなくなっちゃったんだ。見た目が結構グロいから、こうやって眼帯で隠してんの。」
「そ、そうだったんですね……ご、ごめんなさい、詮索して……。」
「俺も昨日色々聞いちゃったし、お互い様じゃない?嵐山の秘密と、俺の秘密の交換こって感じだね。」
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