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第19話
「そこは『そうです』って即答しようよ~、嵐山。」
白金君は可笑しそうに笑い、神田さんのほうを向いて尋ねる。
「夏希も買い物?」
「うん、そうだよー。彼氏の誕生日近くてさぁ。」
「へえ、まだあいつと続いてるんだ?」
「まあね~。冴は?また特定の相手作らないでふらふらしてるんだって?」
「えー?俺最近は大人しいよー?夜遊び全然してないし。」
「冴が言うと嘘っぽーい。」
からかうように笑った神田さんは、大きなフープピアスを揺らしながら本郷君のほうを向いた。
「あ、ねえ冴、本郷借りて行ってもいい?」
「啓一?俺は別にいいけど、本人に聞いて。」
本郷君はあからさまに面倒くさそうな顔になって、神田さんを見下ろした。
「お前の買い物は無意味に長いから嫌だ。」
「まあまあそう言わずに~。うちの彼氏って本郷と体格似てるし、ちょっと手伝ってよ。ね?はい、決まり~。」
本郷君の返答も待たず、神田さんは本郷君の腕に自分の腕を絡め、本郷君の大きい体をずるずると引っ張って行ってしまった。嵐のようにやってきて嵐のように去って行った神田さんについてどんな反応をしていいか分らない僕は、とりあえず白金君のほうを向く。
「啓一のやつ、気の毒だなぁ。夏希の買い物はたしかに死ぬほど長いから。」
笑いを押し殺してそう言った白金君は、僕の表情を見てさらに言った。
「あの子は初等科まで一緒だった子。ほら、うちの学校で中等部から男子と女子分かれるじゃん?だから昔はよく三人で遊んでたんだよね。」
「そうだったんですか……なんというか、すごくマイペースな人というか……。」
「そうそう、よく夏希と俺は似てるって言われる。いい子なんだけどね、夏希。それに美人でしょ?」
「あ、え、そ、そう思います。」
「去年のミス・蒼秀。」
「へえ!す、すごいですね!」
「一時期啓一と付き合ってたんだよ。」
「え?!ほ、本郷君と?」
白金君はいたずらっこのような顔になり、僕を手招きした。促されるままに白金君に近づくと、白金君は僕の耳元でこそこそと話し始める。
「中学二年生の時。夏希から告白したらしいんだけど、一か月もしないうちに夏希のほうから別れを切り出したんだって。」
「そ、それは……性格が合わなかったとか、そういうことなんでしょうか?」
「詳しくは分からないけど、啓一にはずっと好きな人が別にいたらしいよ。俺がそのこと聞いても教えてくれないんだけどね。啓一は隠し事うまいから、幼馴染の俺でも知らないこと結構あるんだ。」
「へ、へえ……本郷君に、ずっと好きな人……。」
「ちょっと意外でしょ?あの無愛想な顔で、ずっと誰かに片思いしてるなんて。」
「そ、そうですね……正直、少し……。」
くすっと笑いをこぼした白金君は顔を上げ、片手をポケットに突っ込みながら言った。
「啓一はいいやつだから、幸せになってほしいんだけどなぁ。片思い相手を教えてくれたらなんでも協力するって言ってんのに、あいつ『別にいい』の一点張りなんだよ。」
「自分の力でなんとかしたいとか……?」
「さあ、どうなんだろ。まあ、最終的に啓一が幸せになれるならなんでもいんだけど。あ、ねえ、あの店見ていい?」
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