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第20話

 白金君に連れられて足を踏み入れたのは、若い女の子向けの雑貨屋だった。店内にあふれるパステルカラーに圧倒されておののく僕とは対照的に、白金君は平気な顔でお店の中に入って いく。 「んー、どういうのがいいか迷うなぁ。」 独り言を呟きながら商品を眺めていた白金君だったが、僕の困惑の表情に気が付くときょとんとした顔で首を傾げる。 「どうかした?」 「あ、いや……白金君はこういうところ来るの恥ずかしくないのかなと思いまして……。」 「恥ずかしい?なんで?」 「だ、だって、明らかに女の子向けのお店だし……場違いかなって……現にすごく見られてるし。」  僕の言葉を聞いた白金君は店内にいた他のお客さんのほうをちらと見る。近くの高校の制服を着た女の子の数人組は白金君と目が合うと、さっと頬を染めて顔を伏せてしまった。 「見られてる?むしろ顔逸らされてない?」 ―――それは白金君がいきなり彼女たちのことを見たからだよ……。  もちろんそんなふうにツッコめるわけもないので、僕は曖昧に返事をして白金君の手元に目をやる。 ―――僕がこういうお店にいると、「オカマのホモ」ってからかわれるからなぁ……。 別に僕は女になりたいわけじゃないし、女の子のように振る舞いたいわけでもないのに。 「男として」男を好きになることはそんなにおかしいんだろうか……。 「おーい、嵐山ぁ?また考え事?」 「え?あ、す、すいません!」 「謝ることじゃないけどさ~。あれだね、嵐山はちょっと気を抜くとすぐ『哲学者』になっちゃうね。」 「『哲学者』……?」 「考えすぎってこと。」 にっと笑って僕の眉間を指で小突き、白金君はヘアゴムが所狭しと並べられている棚のほうに近づいていく。 ―――考えすぎ……か。  小突かれた眉間をさすりながら白金君の後をついていくと、白金君はピンク色のリボンの飾りがついたヘアゴムを手に取って、僕の髪に当てた。 「っ、な、なんですか?」 吃驚して尋ねると、白金君は真剣な表情で首を傾げた。 「うーん……なんか違うんだよなぁ……。」 「ち、違うって……なにが……?」 「この色は黒髪には合わないかなって。なんかもっとシンプルなやつがいいんだよね。ちょうど大人びたい時期だからさ。うーん……これもいまいち……こっちも微妙……。」  腕を組んで大真面目な顔をしてヘアゴムを吟味する白金君の姿を遠目に見ていた女の子数人は、面白そうにくすくすと笑っていた。たしかに、白金君とこのファンシーなお店はミスマッチだ。 「あ、あの、白金君?」 「んー?」 「あっちの女子に笑われてるけどいいんですか……?」 「いいんじゃん?」 「で、でも……。」 納得できない僕を見た白金君はくすっと笑う。 「人になに思われようと、どうでもいいよ。俺は従妹への誕生日プレゼントを選ぶためにこの店に来たんだから。笑いたいやつは笑ってればいいと思う。」 「っ……し、白金君は……どうしてそんなに強いんですか?」 「強い?」  不思議そうに聞き返した白金君に、僕は言葉を続ける。 「強いです。白金君みたいに強くて、優しくなれればいいけど……僕にはできないです……。」 「そんなふうに言ってくれるのは嵐山だけだよ。」 楽しげに笑ってそう言った白金君は、別のヘアゴムを手に取って天井のライトにかざして言った。 「俺は強くないよ。自分本位なだけ。それに優しくもない。全部自己満足。」 「だ、だけど……。」 「俺はね、嵐山が思ってるほどはいいやつじゃないよ。」

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