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第22話
「お待たせー。」
ラッピングされた包みを持って戻ってきた白金君は、僕が耳たぶを弄っていたことに気が付くと顔を近づけてきた。
「どうかした?」
―――っ、こ、この顔が近づいてくるの、ほんと慣れない……。
「い、いえ、なんでもないです……。」
「耳どうかした?」
「あ、いえ……あの……白金君はいっぱいピアス開いてますよね……?」
「ピアス?ああ、うん。うちの学校じゃ別に注意されないからね。」
「そ、その、痛くないんですか?」
「う~ん、開ける瞬間はね。でももう慣れちゃったから分からないや。」
そう言って笑った白金君は、僕の耳たぶにいきなり触れてきた。
「っ、ひゃっ!?」
―――へ、変な声出た……!!
ど、どうしよう、気持ち悪いと思われたかもしれない。
自分で思ってもみなかったような声が出てしまって真っ赤になる僕を見おろし、白金君は申し訳なさそうに眉尻を下げてほほ笑む。
「ごめん、耳触られるのが苦手って知らなくて。」
「い、いえ、僕こそすいません。」
「あははっ、嵐山が謝るのはおかしいって。いきなり触ったらびっくりするよね。ごめん。」
「い、いえ……。」
耳なんて人に触られたことがなかったから知らなかったけど、くすぐったくて、むずむずして、ぞくぞくするものだった。
―――それとも白金君の触り方が特別なんだろうか?
白金君の長くて滑らかな指のせい?
それともいきなりだったから?
そんなことを考えていると、白金君のスマートフォンが鳴った。
「ん、電話来た。ちょっとごめんね……あ、夏希からだ。」
―――さっきの神田さんからか。
そういえば、本郷君はなかなか戻ってこないな……。
「もしもし?夏希ー?……うん、そう。……うん……え?ああ、こっちはね。啓一は?……ああ、そっかぁ。」
僕をちらっと見た白金君は笑いながら首を横に振る。
―――まだ時間がかかるってことかな?
しばらく話してから電話を切り、白金君は大きなため息をついた。
「向こうはもう少しかかるみたい。先帰ってようか。それとも嵐山もなにか見たいものある?」
「い、いえ、僕は……。」
「じゃあ先帰ってようよ。」
「ほ、本郷君は大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃない?夏希の扱いに一番慣れてるのは啓一だし。」
「そ、そうですか……。」
本郷君のことをよく知っている白金君が大丈夫だと言うなら、たぶん大丈夫なんだろう。僕が横から口を挟むべきじゃない。その時また白金君のスマートフォンに電話がかかってきた。白金君は画面を見ると、僅かに首を傾げる。
「誰だったかな、これ…………ごめん、ちょっと電話出てくるね。」
「あ、はい。ごゆっくり。」
もう一度「ごめんね」と言ってから、白金君は電話に出るために少し離れたところへ行った。僕は近くのソファに腰を下ろし、自分の手を見下ろす。昨日手首に貼ってもらった絆創膏は昨夜貼り替えたので、すでに味気ない肌色の絆創膏に変わっていた。
―――まだ傷口が乾いてないから痛い。
背中にできている痣も痛いし、ほっぺたの傷も相変わらずずきずき痛む。
今日は誰にも殴られなかったけど、明日はどうなるか分からない。
また殴られるかもしれないし……。
「おい。」
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