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彼は少し恥ずかしいのも落ち着いたのか、ちゃんと顔をあげて話し始めた。彼の声が落ち着いてきたのを感じて、僕ももう一度、ちらりと彼を見上げてみる。
そうしてみれば、さきほどよりも彼の雰囲気をちゃんと感じ取れた。背が高くて、優しそうな目をした人だ。それに、笑顔がきらきらとしている。
前髪に視線を隠すようにこっそりと伺い見ただけでも、また思う。眩しいなあ、と。
ああ、なんだか彼は……
「貴方の恋人さんは、とても幸せ者ですね」
「えっ?」
「とても……羨ましいです。きっと貴方に愛された人は、幸せになるんだろうな」
「――……」
彼を眺めていたら、思わず本音が出てしまった。きっと、彼と一緒になった人は、幸せな未来を築ける――そう思った。彼は僕と真逆の人間なのだと――思ったのだ。
彼が僕から遠い存在だからこそ、彼と彼の恋人が幸せになって欲しいと心から思う。その願いを胸に、僕は薔薇の花束を作ってゆく。僕の手は美しいものに触れてはいけないと、そう思うのだけれど、精一杯の祈りを込めて花を束ねていった。
「こんな感じでどうでしょうか?」
「あ、ああ……すごく、綺麗です。はい、それで大丈夫です」
「では、五千円です」
「……はい」
淡いカラーのラッピングフィルムを使って仕上げた花束を、彼に見せた。彼は呆けたような顔をして財布から一万円を取り出し、トレーに置く。僕がその一万円を受け取って「一万円をお預かりしたので、五千円のお返しです」と言ったところで、彼が一言、「お釣りはいらないです」と言ってきた。
「……え?」
「もうひとつ、薔薇の花束を作ってもらえませんか。同じく、五千円で」
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