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「――……、ええ、大丈夫ですよ」 「花の色は、……うん、白で。ラッピングは……ベージュがいいかな。リボンは……うーん、ブロンズとかありますか? あとメッセージカードもつけたいんですけど」 「……、はい、わかりました」  突然の追加の注文を、僕は少しだけ不思議に思った。どうして今追加しようとしたのかとか、薔薇の花束をふたつ買うのが珍しいとか、こっちは白の薔薇なのかとか、些細な疑問点はあるが、それよりも――花やラッピングの色を僕を見ながら決めている彼の様子を不思議に思ったのだ。目を合わせている、というのではなく、本当にを見ながら決めていた。  ただ、だからなんだというわけではない。あまり見つめられることに慣れていないので、戸惑っただけだ。買ってもらえるなら、それでいい。 「メッセージカードには、何を書きますか?」 「あ、俺が自分で書いてもいいですか?」 「ええ、どうぞ」  ラッピングをしている間、彼にメッセージカードを書いてもらう。カードとペンを渡すと、彼は真剣な顔をしてカードとにらめっこを始めた。 「あの、」 「はい?」 「えーと、お兄さん、お名前なんていうんですか?」 「え、僕ですか? 朝霧(あさぎり)です」 「あさぎり……あさって、朝? モーニング?」 「はい」 「ぎりは、天気の霧?」 「はい……そうですけど……?」  ……僕の名前を訊いてどうするんだ? 些か疑問に思ったが、もたもたとラッピングをするわけにもいかないので、とりあえず手元に神経を集中させる。  白の薔薇に、ベージュのラッピングペーパー。ブロンズのリボン。彼の指示通りのカラーでラッピングしてみれば、思った以上にイノセントな花束が出来上がった。先ほどの情熱的な赤の花束と比べると、ますますこの花束を送る相手が気になってしまう。今更訊くのも無粋なような気がしたので、黙っておくけれど。  出来上がった花束を彼に渡すと、彼は花束と僕を交互に見つめながら満足げに微笑んだ。まつ毛の先にまで表情があるのかというくらいに、それはもう優しい笑顔で。花束にメッセージカードを添えた時の表情は、言葉にできないほどに柔らかかった。 「じゃあ、朝霧さん」 「はい?」 「――これ、貴方に」 「……はいっ!?」  彼は花束を僕の手元に返すと、すっと真っ直ぐに、射抜くように真剣な瞳で僕の目を見つめてきた。  何が起こっているのか、僕は理解できなかった。しかし、彼の視線――まるで、瞳の奥にゆらめく炎を押し込めたような……熱視線というには密やかで甘やかなその視線に、反射的に僕の心臓はばくばくと高鳴りだす。そんな目で見つめられて、平静でいられる人なんて、きっといない。 「俺、R大学の三年生、久野(くの) (あかつき)っていいます。朝霧さん、貴方に一目惚れしました。……これ、受け取ってください」

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