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店を閉店した後は、眞希乃さんと夕食を共にするというのが僕の日課だ。眞希乃さんは足が悪いため料理をするのも大変で、そして一人暮らしということもあり、夜に彼女を一人にしてしまうのがどうしても不安だったのだ。
眞希乃さんは、アムルーズと隣接した小さな一軒家に住んでいる。僕は毎日、店が終わるとそこへお邪魔して夕食をつくり、一緒に食べて、そして帰宅するという生活を送っていた。
「今日は変わった子が店に来たんだ。僕に一目惚れしたって言われて……ああ、年下の男の子なんだけど。恋人のために薔薇を買いに来たって言ってたから、からかってるのかなって……思いたいんだけど、でも、すごく真剣に告白されたからそうも思えなくて……」
夕食を作り始める前に、もうひとつ、日課がある。それは眞希乃さんの家にある仏壇に、お線香をあげること。仏壇には、眞希乃さんのご先祖様はもちろん――眞希乃さんの娘であり僕の婚約者だった紋 さんが祀られている。
紋さんは僕よりも三歳年上で、僕の初恋の女 だった。僕が二十二歳の時に出逢って、三年間お付き合いをして、僕からプロポーズ。そして……籍をいれる前に、交通事故で亡くなった。
「……きみのように、すごく、きれいな子だった。ほんとうに……」
仏壇の傍に飾られている紋さんの写真は、優しく微笑んでいた。僕の話を喜んで聞いてくれているように思えた。暁くんの話のような……浮いた話を彼女にするのは、初めてだ。
眞希乃さんが言うように、僕がまた誰かに恋をすることがあったなら、紋さんは喜ぶだろう。けれど――僕にはもうそれはできない。
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