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***  ――蝉の鳴き声が五月蠅(うるさ)い、十四年前の夏の終わりの日。あの日のことを、今でも鮮明に覚えている。  当時小学生だった僕は、夏休みの課題に追われて家に閉じこもっていた。ただ、外に出なかったのはため込んだ課題のせいもあるが、もう一つ大きな理由があった。その頃、近所で数件の殺人事件が起こっていた。治安が悪いからと、母が「なるべく家を出ないように」と僕に言い聞かせていたのだ。  その日の朝、自宅のチャイムが鳴る。母が玄関に出て行ったのだが、戸惑い交じりの声で来客者と話していたので、僕は気になって扉の隙間から玄関を伺い見た。来客者は、警官だった。警官は僕の父に任意同行を求め連れて行ってしまった。父はそれから帰ってくることはなかった。  父の逮捕を知ったのは、数日後のテレビのニュースでだった。近所で起こっていた連続殺人事件の犯人が、僕の父だったのだ。  その事件を境に、僕のすべてが変わってしまった。

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