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僕の父が犯した殺人は、今でも猟奇的殺人としてネットの片隅で泳いでいるほどに凄惨なものだった。見つかった遺体は全てばらばらにノコギリで切断されており、箱に詰められて放棄されていたという。
今まで優しかった父がどうして? その疑問を解決したのも、ニュース番組だった。父の犯した殺人の猟奇さに群がったマスメディアは、連日のように面白おかしくこの事件のことを報道していた。どうやら父は、昔から歪んだ性癖を持っていたのだという。家宅捜索によって押収された父のパソコンからは、大量のグロテスクな画像や動画が見つかったらしい。そんな性癖を、僕も母も、一切気付かなかった。家ではものすごく優しい父親だったからだ。しかし、きっと父はおかしかったのだろう。思い返せば、初めの被害が出てそれが報道されていた時も、父は平然と僕たちに笑顔を見せて、食事も普通にしていた。メディアでは精神異常者だと大袈裟気味に報道されていたが、たぶん、それは正しい。
当時十二歳だった僕は、父が逮捕されたと知ってからも驚き悲しみはしたが事の重大さをあまりわかっていなかった。父が大変なことをしたのだ、というのはわかっていたが、あまつさえ「早く家に戻ってきてほしい」なんて考えていた。
しかし、徐々に日常は壊れ始める。僕は父のしたことの残虐さを思い知る。自宅に報道陣が押し掛ける毎日。一日中鳴りやまない電話のコール。罵倒の言葉を羅列したFAXが津波のように送りつけられる。自宅の壁に「人殺し」「異常者」等の落書きや張り紙を毎日のようにされて、常に家の周りを誰かがうろついている。家にはバラバラにされた猫の死骸が詰められた発泡スチロールの箱が送られてきたり、グロテスクな写真がポストに投函され――「おまえたちの父がやったことはこういうことだ」、と無言のメッセージが叩きつけられる。
母は憔悴していった。一度、僕と無理心中を図ろうとしたが、寸でのところで踏みとどまった。しかし、母は東京の親戚の家に僕を預けた後、自殺した。
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