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 暁くんは僕の戸惑いに気付いているのかいないのか、遠慮なしに僕に近付いてきた。相変わらず、にこにこと眩しい笑顔をしている。 「昨日の薔薇の花束は、渡せたの?」 「ああ、あれですか? はい、ちゃんと渡してきましたよ」 「彼女、喜んだ?」 「……ええ、きっと」 「きっと?」 「――ところで朝霧さん……風邪ひいた? マスクなんてかけて……」 「えっ。あ、ああ……ちょっと喉が痛いくらいだけどね」 「マジすか! じゃあ、のど飴あげる! はい、手を出して」 「……あ、ありがとう」  暁くんは僕の風邪に気付くなり、僕にのど飴を渡してきた。銀紙に包まれたそれは、レモン味の飴のようだ。彼がじーっと見つめている手前で口にいれるのはなんとも言えない気持ちになったが、せっかくもらったのでありがたく舐めさせてもらった。甘くて爽やかなこの味は、久々に感じたような気がする。  それにしても、薔薇の花束の話を逸らされてしまったのは何故だろう。正直、あの薔薇の花束の行方が僕は一番気になっている。僕に一目惚れしたと言っておきながら、「恋人のために」買ったというあの赤い薔薇の花束。僕が作った花束でもあるから、暁くんとその恋人にとって良いものであって欲しいのだけれど。  閉店間際ということもあり、客足は遠のいている。閉店作業もぼちぼちやらなければいけないのだが、比較的ゆっくりとできる空気だったので、暁くんととりとめのない会話をしながらアムルーズの残りの営業時間を過ごした。彼がやってきたときこそは構えてしまったが、意外と彼と話している時間はあっという間に過ぎて行った。 「ふふ、玲維くん。そろそろ閉店時間よ。一旦お店を閉めましょう?」 「……あっ、すみません眞希乃さん……ずっとおしゃべりしていて」 「いいのよ。それに、今日はあまり根詰めて働かない方がいいわ。お店を閉めたら早く帰りなさい。体、大事にしてね」 「え、でも……今日の夕食つくらないと……」 「出前をとるからいいわよ。さすがに申し訳ないもの」  閉店しようとしたところで、暁くんが不思議そうな顔で僕たちを見つめてくる。会話の内容が気になったのだろうか。たしかに、客観的に考えれば親子でもない僕たちが夕食を共にしているというのは不思議かもしれない。  変な勘違いをされても困るので、僕と眞希乃さんの関係をそのうち教えてあげようか……そんなことを考えていると、暁くんが僕たちの間にするりとはいってきた。 「もしかして、いつも朝霧さんが、その……えーと、眞希乃さん? にご飯つくってるんですか?」 「……ああ、そうだよ。いつもお世話になっているから」 「ふうん。そっか、じゃあ今日は朝霧さんが風邪をひいちゃってご飯作れないって話ですね? うーん、たしかに出前も悪くないけど、うーん」 「……暁くん?」 「あ、じゃあ俺が作りますよ!」 「……うん?」 「もちろん、朝霧さんの分も一緒に!」 「……え、ええ?」 

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