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「まあ、いい匂い」  眞希乃さんの嬉しそうな声が耳をくすぐった。もちろん、暁くんの料理が美味しそうということもあるだろうが、久々の賑やかな食卓が楽しいのだろう。そんな眞希乃さんの様子を見ていると僕も嬉しくなってくるが、同時に少しだけ哀しい。眞希乃さんはこうした賑やかな雰囲気が好きなんだな、と思うと、どうしても。僕が、眞希乃さんからこの風景を奪ってしまったのだから。  一抹の息苦しさを覚えて、僕は気を紛らわそうと箸を動かした。ホイル焼きのアルミを破いてみると、中に閉じ込められていた味噌の匂いがふわっとのぼってくる。その匂いが暖かくて、優しくて、強張っていた胸がほぐれていくようだった。 「綺麗に焼けてよかった。ね、朝霧さん?」 「……うん、すごく美味しそう」 「食べてみてよ、朝霧さん。眞希乃さんは美味しいって言ってくれたよ」 「わ、わかった、食べるから……あ、あんまり見つめないで」  ちらりと視線を動かして眞希乃さんの表情を垣間見れば、彼女は幸せそうに頬をほくほくと染めて咀嚼していた。見ているこちらが思わず唾を飲んでしまうようなその表情につられて、僕も吸い込まれるように鮭に手をつける。  箸先でつつけばほろりと崩れた鮭は、ほどよく油が乗っていてつやつやふわふわとしていた。崩した身を白米の上に乗せて一緒に口に運ぶと、じわ……と静かに広がってゆくような仄かな温かさと共に、味噌と鮭の塩味が程よく混ざった甘味が口の中に溶けてゆく。 「な、……なにこれ、美味しい……」 「……ほんと?」 「うん、すごく美味しい……」 「……よかった、朝霧さん、もっと食べて」 「うん」  ひとくち、ふたくち、食べ進めて行ったところで気付く。暁くんが……箸を止めて、僕の顔をひたすらに見つめている。

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