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***  約束の木曜日が来るのは、あっという間だった。  暁くんの待っている駅へ行くのか行かないのか、結局のところ僕は決めることができていない。携帯電話の番号も知らない以上、事前に断りの連絡をいれることもできない。行くか行かないか、そのどちらかの選択肢しかなかった。  いっそのことすっぽかして暁くんに愛想をつかれてしまったほうがいいのではないか、そんなことも考えた。いや、この一週間ずっとその答えを持っていたはずだ。彼に卑しい想いを抱いてしまった以上、彼に会ってはいけないと、そう思っていた。  それなのに、当日になって僕は迷っていた。今日、約束を破れば――もう、彼と会うことはなくなってしまう。そう思うと怖かったのだ。もう二度とあの笑顔を見ることができなくなると思うと、たまらなく哀しくなった。彼を好きになってしまったから会わないと決意したはずなのに、彼を好きになってしまったから会いたいと思ってしまっている、そんなばかばかしい状況に陥っていた。 「……」  ベッドに寝転がりながら、棚に飾ってある薔薇の花を眺める。  僕は、あの薔薇だけを愛していればいい。あの薔薇を、彼だと思って自らを慰めていればいい。あの薔薇が枯れてしまったら、きっとこの恋も消えてくれるに違いない。……そう思うと、いくらか気分は楽になる。 「……いかない。……今日は、いかない。いかないんだ……」  もう、彼のことを考えるな――そう自分に言い聞かせる。  恋なんて、僕はしてはいけない。

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