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「こんな時間に来てもらっちゃって、ごめんね、玲維くん。玲維くんの顔見たらなんだか元気でてきたわ。ありがとう」
「いえ……眞希乃さんが無事でよかったです」
眞希乃さんはしばらくは安静が必要な状態だったが、大きなけがではないようだった。顔色が悪いということもなく、僕が来るなり笑顔を見せてくれた彼女を見て、僕はホッと胸をなでおろす。
病院に着いたのは、夜七時。きっと、暁くんはもう駅に来ているだろう。どのくらい僕を待っているのだろうか……そう考えると胸が痛くなるが、これで彼に嫌われるならそれでいい。
……はずなのに。
「……玲維くん?」
「あ、はい」
「何か……これから用事でもあった? さっきから時計を見ているけど……」
「えっ!? い、いや……何もないですよ? ほら、この病院、面会時間が夜八時まででしょう? だから時間が気になって」
僕は暁くんのことを気にするばかりに、無意識に何度も腕時計を確認していたらしい。それを眞希乃さんに指摘されて、僕はショックを受ける。暁くんに嫌われてしまおうと思っているなら、ここまで彼のことを気にする必要などないはずだ。結局自分自身をコントロールできていないことに気付き、僕は自分に呆れてしまった。どうせ彼との関係なんてこれで終わるのだから、気にしたところで仕方ないというのに……本当に、僕は馬鹿だ。
暁くんのことを振り切るように、僕は普段よりも饒舌に眞希乃さんと会話をしていた。眞希乃さんが入院している間のお店のことを中心に、なるべく時計を気にしないようにずっと話していた。
「あら、玲維くん」
「はい」
「傘は持ってきた? 雨が降ってきたんじゃないかしら……」
「えっ?」
眞希乃さんに言われて、僕は窓の外を覗く。たしかに――雨が降っている。しかも、ぼつぼつと大粒の雨が。
「にわか雨かしらねえ、強くなりそうだから帰った方がいいわ。お金は持ってきている? タクシーのお金、私が払おうか?」
「いや、タクシー代くらいは自分で払いますよ、大丈夫です。そうですね、段々激しくなってきているので帰ってみます。また明日来ますね」
時計を見てみる。時刻は――七時半。
ドクン、と心臓が震える。
まさか、もう暁くんは帰っただろう。帰っていてくれ。
妙に嫌な予感がして、僕は眞希乃さんに作り笑顔を見せることもできずに、病室を後にする。
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