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「朝霧さん……」
暁くんが、一歩近づいてくる。僕はその足音に恐怖を覚えて、反射的に後ずさる。
「どうして、そんなに俺を怖がるんですか」
「……逆に、どうしてきみは僕を追ってくるんだ……!」
「好きだからですよ」
「どうしてこんな僕を、好きなんだ! 僕は……、僕は、紋さんを殺したんだぞ……きみはどうして、そんな僕を……!」
叫べば、暁くんは黙り込む。きっと、僕の言っていることの意味がわからないだろう。それならば、いっそのこと全てを彼に話して、彼に逃げてもらえばいい――そんな思いが僕の中で湧いてくる。
「……昔、死体がノコギリでばらばらにされて遺棄されたていう事件があったでしょ。あれの犯人は、僕の父親だった。僕は……あの殺人犯の、息子なんだよ」
「……、」
「ずっと……人目から逃げるように生きてきた。僕にあの男の血が流れているのかと思うと、誰にも触れることができなかった。あの男に殺された人のように、誰かを傷つけてしまうような気がしたんだ」
「……でも、朝霧さんは、」
「「きみは父とは違う人間だから」――そう言ってくる人もいたよ。何度も何度も言われているうちに、僕はその言葉を鵜呑みにして――紋さんを、愛してしまった。彼女に、触れてしまった。……紋さんは、……死んだ。事故で、死んだ。……僕なんかと、結ばれたから」
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