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 暁くんは僕を見つめ、困ったように唇を結んでいた。突然、僕の身の上話を聞いて困惑しているというのもあるだろう。そして何より、僕が薄汚れた人間だと知って驚いているのだろう。  少し、安心した。ここまで言って彼が諦めなかったらどうしようかと思った。これで、彼とさよならができると思うと、胸の中が(から)になる。もう彼のことを考えて胸を痛めることがなくなるのだろう。 「僕は、二度と恋をしない。誰かを愛したりしない。もう二度と、誰かを傷つけたくないんだ」 「……朝霧さんは、……恋をするのが、怖いんですか……?」 「……怖いよ。誰かに触れようとすると、いやなものが頭の中に浮かんでくる。……僕は恋をしてはいけないって、神様が言っているみたいに。僕が愛した人は、傷付いてしまうんだって、……そう、言っているみたいに……」 「……でも。……恋をしちゃいけないなんて、そんなこと……ありません。俺は朝霧さんじゃないから、朝霧さんがどれだけ苦しんできたのか、ちゃんとわかりません。でも……朝霧さんがどんな過去を抱えていたって、恋をしちゃいけないなんて、そんなことありません……!」 「――何を根拠に……! 僕は、紋さんを殺した! 紋さんは僕が愛したから死んだ……! 紋さんは僕に会っていなければ死ぬことなんてなかった……! 僕が間違っていたんだ、彼女と恋をしたいと思った僕が、全て間違っていた……! 恋なんて、絶対に――」 「――朝霧さん」  ――パン、と視界に火花が走った。  何が起こったのかわからなかった。気付けば目の前に暁くんがいて、赤らんだ瞳で僕を睨んでいる。――泣いている? どうして?  そして、静かに熱を帯びてきた頬に――僕は、彼にビンタをされたのだと気付く。

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