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わけがわからず僕が眉を顰めれば、彼は瞳を震わせて、この雨の中でもわかるくらいにぽろぽろと涙を流して、絞り出すような声で僕に語り掛けてきた。
「……朝霧さん。俺も、恋をするのが怖い気持ちは、わかりますよ。朝霧さんとは少し違うけど……俺も、誰かを好きになるのは、怖いです。だから、朝霧さんが怖いって言っているなら、無理強いしたりはしません。でも――一度好きになった人を……誰かに恋をしたこと、それ自体を否定するのは、だめです……! 絶対に、だめです! 朝霧さんはアヤさんを愛していた……その思い出を、切り捨てようとしちゃだめなんです!」
「……、暁くん、?」
「好きだったんですよね? アヤさんのことを、愛していたんですよね? どうして、そんなに哀しいことを言うんですか……! これから朝霧さんが誰かを好きになるかどうか、それは……朝霧さんが決めることです、……でも、アヤさんと恋をしたことが間違っていたなんて、そんなこと言ったら哀しいじゃないですか……アヤさんは、貴方を幸せにしたかったはずなのに、貴方と恋をして幸せだったはずなのに……!」
冷たい雨が、頬を少しずつ冷やしてゆく。
彼の視線が、僕を射抜く。暁くんの言葉が、じりじりと、僕の中で熱を生む。
僕の事情なんてほんの少ししか知らないきみが、何を言っているんだと正直思った。しかし、なぜか暁くんの言葉は強烈に、僕の頭の中を掻き回す。
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