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「……っ」  やはり、少し怖かった。彼の腕に抱かれて、その肉体に包まれると、どうしても僕が触れてはいけないもののような気がして目の前が真っ暗になる。頭の中に、恐怖が這う。  しかし、それでも僕は暁くんの背中に手を回した。抱きしめかえすとびくりと震えた彼が愛おしく思えて、もっと力を込めた。  ――ああ、彼が好きだ。僕は暁くんのことが、好きだ。  吐息がこぼれる。彼の首元に縋りつく。「怖い」、その思いよりも強烈な、溢れる情動が僕を突き動かす。  ぐっと抱いた彼の背は、大きかった。僕の体をきつく抱きしめる彼の腕は、逞しかった。触れ合った体は、熱かった。彼の心臓の鼓動を感じると、僕の中で何かが膨れ上がった。  凍えていたはずの体、少しずつ熱くなってゆく頬、早くなってゆく鼓動。恐怖が、ゆっくりと溶けてゆく。触れたいという気持ちが、こみ上げてくる。 「暁くん……」  雨の音が、優しいもののように思えた。暁くんの呼吸音と合わさると、すごく、温かい音に聞こえた。その優しさと、そしてじわじわと溶け合ってゆく体温が心地よくて、ずっとこのままでいたいと思った。

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