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***  駅から小走りで僕のアパートへ向かったものだから、道中はあまり会話がなかった。雨も激しくなってゆく一方で、会話などする余裕はなかった。無我夢中で走って、アパートについてから、僕は暁くんを家に誘ったことに対して今更のように緊張し始めた。とはいっても、あの雨の中で彼を駅に置いてくるというのもどうかと思うので、この状況は必然のものだ。緊張は無意味なものである。 「あー、正直泊めてもらえるのめっちゃ助かります~! ありがとう、朝霧さん!」 「……うん」  暁くんは僕と違っていつもと変わらない様子だったので、いくらか救われた。僕が勝手に緊張しているだけだ。彼と狭い空間で二人きりになると考えると、胸の奥から頭まで何かがせりあがってくるような、そんな感覚を覚えてしまう。玄関から中に入って、扉を閉めて、雨音が遮断されると――ぐ、と息が苦しくなる。今から朝まで、彼と二人きりなのだ。脱いだ靴をそろえている彼のつむじを見つめながら、ドキドキとどんどん心臓の鼓動は早くなってゆく。

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