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「えっと……お茶でいいかな?」 「はい」  心臓がせわしない。指先に勢いよく血が回っているような感覚がして、手元がおぼつかない。こうも体が熱くなると、僕は自分の心に蓋をしていただけで、本当はずっとずっと恋がしたかったんだな、と実感する。  しかし、もしも暁くんと恋人になったら――そんなことを考えてはみたが、はっきりとしたイメージは思い浮かばなかった。やはり、まだ僕の奥のほうにはざらざらとした自分自身への恐怖が根付いていて、すぐに恋ができるのかといえばそうではないらしい。恋はしたいが、恋ができない。以前とはまた違う……息苦しさが、僕の中に生まれ始めている。 「……朝霧さん、お気遣いなく。朝霧さんが食べたいものでいいですよ」 「えっ。あ、うん」  悶々と考えながら、冷蔵庫の冷気で火照る顔を冷やしていた僕は、暁くんに声をかけられてハッとした。ちょっとした食べ物を出すだけで、時間を使いすぎている。僕は冷蔵庫から適当に飲み物と昼間に作ったサラダのあまりと、そしてタッパーに入れていたもらいものの煮物を取り出した。この煮物は、昨日、アムルーズの隣のお店の御婦人が僕たちにくれたものだ。  暁くんの待つテーブルまでそれらを運んで、僕も腰を下ろす。テーブルが一人用の小さなもののため、暁くんとの距離が近い。この距離で寝るまでの時間を過ごすのかと思うと、ほんの少し憂鬱だ。上手に会話をできる自信がなかった。

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