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「朝霧さんってさ」
「うん」
「東京、好き?」
「え? ……別に、好きでも嫌いでもないかな。なんで?」
「いや。朝霧さんってもともとはこっちの人じゃないんですよね? 俺、東京生まれ東京育ちなので、違うところから来た人の東京の印象、気になる!」
「うーん……そもそも僕は東京をあまり知らないから……。来たばかりのころは生きることで精いっぱいで東京を知る余裕もなかったし、紋さんとお付き合いしていたころはデートで色々行ったりしていたけど、……なんというか、はは、紋さんのことしか見ていなくて周りの景色をよく覚えていないんだ。紋さんが亡くなってからは、アパートとアムルーズを行き来するだけの生活だから、……うん、東京のことが全然わからない」
「それは……勿体ないですね! せっかく楽しいところがいっぱいあるのに。俺が案内しますよ、一緒にどこかに行きましょう!」
「……」
「……あの、まあ、デートのお誘いなんですけど、どうっすか」
流れるようにデートに誘われて、僕は思わず箸を止める。
僕は彼とデートをしたら、きっと彼をもっと好きになるだろう。でも、そこから先にはきっと進めない。そんな状況で、彼とデートをしてもいいのだろうか。
口ごもる僕を、暁くんは緊張気味の優しい目で見つめている。彼は……本当に、綺麗な目をしている。暁、の名が良く似合う。
「きっと、俺と一緒なら、朝霧さんも東京を好きになれますよ」
彼にならば、僕の押し込められた恋心も救ってもらえるような……そんな気がした。彼に信じてもらえると、僕が僕を信じることができる、そんな気がするのだ。
「……じゃあ、連れて行って。きみが好きなところに」
「――はい」
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